<シナリオ>
舞台は幕末。主人公・惣一と江戸では剣術の腕前で名を馳せる霧が、殺された養父の仇討ちのために小さな港町へと立ち寄った。そこで彼らが大きな事件に巻き込まれて……というような話。
幕末という舞台設定が目を引きますが、あんまりそれを感じさせるようなものがあるわけではありません。藩とか幕府とかって言葉は一応出てはくるのですが、幕末の頃の混沌とした雰囲気というのがあるでもないので、文章からその時代背景や時代の雰囲気を感じるのはちょっと難しいかも知れません。シナリオライターさんがおそらくそれに非常に苦労しているというのはなんとなく伝わっては来るのですが。
なのですが、物語そのものは結構よくできています。
まず驚かされるのは、やっぱりその伏線の張り巡らし方でしょうか。あんまり詳しいことを云ってしまうとネタバレになってしまいかねないのであれですが、最初にぱっと広げた伏線が、最後にうまく回収されているのはもちろん、一度回収した伏線の再利用によってどんでん返しを狙うという手法も巧く生かされていて、どんどん先が読みたくなる展開になっています。
最初に読めるシナリオのうちでは謎をあえて残したままにしておいて、まだ先があることを軽くほのめかしておいて最後にその謎を解く……というパターンですね。
これ自体はこの手の物語としては比較的よく使われる方法で取り立てて目新しいということではないのですが、シナリオの一つ一つが伏線になっているというのはこれはなかなか読んでいて読み応えがありますし、読み終えた後の読後感も非常によいものになります。
テキストのテンポもよくて、語られる物語が素直に楽しめるのは非常に嬉しいところです。裏の裏をかくほどの意外性があるわけではないのですが、それを考えたとしても十分に物語として楽しめるものであることはおそらく間違いありません。
細かいことを云えばいろいろとないわけではなくて、例えば本来であれば手に汗握る戦いの部分の描写が実に簡単だったり、主人公・惣一の女の子たちに対する行動や思想が若干唐突過ぎたり、なにより上にも書いた「シナリオの一つ一つが伏線になっている」展開であるがゆえにその一つ一つがどうしてもあっさりしたものになってしまっています。
まあ、茜や香澄あたりのシナリオがそういうあっさりした展開になってしまうのは若干仕方のないところではありましょうが、本来ヒロインであるはずの霧まで同じようにあっさりしているというのはちょっとどうなんでしょうか。一応、メインのエンディングの後にそれがフォローされはするのですが、いまさらそんなこと云われてもなあ、という印象は否めません。
どうしてもそっちのエンディングのほうに出てきたあの二人のほうにばかり意識が行ってしまい、すっかり惣一と霧が忘れ去られてしまいます。
要するに、全体的にちょっとボリューム不足なんですね。
確かにゲームの時間のバランスとしては悪くはないのですが、これだけのことを書くにはどうしたってこのボリュームでは足りません。
各シナリオ共通に後半がどうしてもハシリ気味になってしまうのは、これと必ずしも無関係ではないでしょう。霧のシナリオの後半部分なんかは特にそれを感じます。
もし仮にこのへんにさらにボリュームがあったとすれば、ストーリーと相俟って、いわゆる大作になっていたかもしれません。ただ、他のシナリオがメインのストーリーの伏線「でしかない」ことが、それの足を引っ張ってしまっているという惜しさというのは確実にあります。
そしてもう一つ、そのボリューム不足は、キャラクターの印象もどうしても弱いものにしてしまっています。
なんというか、キャラクターの書き込みがすごく薄いんです。こういうものの理想としては、プレイヤーは最初にキャラクターと出会ったところで得たファーストインプレッションに、物語の中で語られるそれぞれのエピソードに秘められた設定を頼りにしてキャラクター像を頭の中に形作るということになります。
キャラクターの書き込みというのは、おそらくこう云った……たとえば最初に会ったときはすごくガサツで乱暴な奴だと思っていた女の子が、たまたまなにかのきっかけで料理をしてくれるというイベントを見せることで実はそういう一面も持っているのだというのを見せる、なんていうエピソードによる説明の繰り返しで成り立つものだと思うのです。無論、これもやりすぎるとただくどいだけになってしまうのですが。
しかしこの作品の場合、特に中盤から後半にかけてはストーリーと関係のないエピソードが切り捨てられてしまっているため、そこで語られる情報量があまりにも少なくなり、結果としてファーストインプレッションにプラスアルファしたもの程度の情報しか与えられません。
これは良くも悪くも物語のテンポそのものは早くなるのですが、それと同時にどうしても各キャラクターに対する印象を薄いものにしてしまいます。
だからどうしてもほとんどのキャラクターは後に引きづらいというか、終わった後にあああの子がよかったなあ、と思うような要素に欠けてしまっているのです。
これは本当に、物語の中ではそれぞれが結構いい感じに立ち回っているだけに惜しいところでしょう。
エッチシーンは、ボリュームとしてはそんなに多くなく、ええっそんなもんなの?と思ってしまうくらいあっさり終わってしまったりしてちょっと拍子抜けすることもあるかも。
ちなみに、何気に結構陵辱っぽいというかその手のエッチシーンもあったりしますのでそういうのが駄目な人は若干の注意が必要です。
<CG>
全体的に丸っこい感じの絵で、ひらたく云えば全体的にロリ系。茜や霧みたいないわゆるロリ系キャラはそれでもいいのでしょうが、香澄や静音あたりはキャラ自体は本来ロリの人じゃないんだろうなあという感じがするので若干微妙かも。
幕末なのにパンチラかよ!みたいなのが多々あるのはまあお約束ってやつなので別にいいですし、キャラ絵としては、一枚絵も立ち絵も男キャラもきっちり描かれているのはよいです。
注目は背景でしょうか。この背景が実に巧く描きこまれていて、本当に綺麗です。まあ、別項にも描いたように、それが幕末の雰囲気かと云われるとこれは少し難しいのですが。
あと、これまた結構雰囲気から来る想像に反して、血がドバドバ出るようなCGがふんだんにあったりしますのでそういうのが苦手な人は少し注意かもしれません。
<システム>
スタンダードな選択式アドベンチャーで特に見るべきところはないんですが、テキストの「縦書き」と「横書き」の選択ができます。縦書きにしてもそれほどの違和感はありませんので、これはもうお好みで。
回想モードだと問答無用で横書きになりますがこれは別によいでしょう。ちなみにバックログはマウスのホイールにも対応しています。
スキップはメニューから選ぶと「既読スキップ」、CTRLキーが「強制スキップ」。テキストのスキップは早いんですが、既読スキップだと画面切り替えの効果がオフにならないので若干モタつきます。そんなに気になるほどではありませんけどもね。
セーブも百箇所可能な上にコメントがつけられる非常にありがたい仕様。まあ、選択肢そのものがあまり多くない上に難易度も全体的には低めなので、そんなには使わないと思いますが。
インストールしてしまうと、起動にディスクが要らないというのもありがたいです。
バグに関しては、ゲーム中にはこれといった問題はなかったのですが……なぜかうちのパソコンだと、エンディングの二つ目のムービーが再生された後、画面が真っ白になって曲だけが流れるという奇妙な現象が発生しました。ノートのほうだと問題がなかったのでこれは純粋にマシン環境によるものでしょう。
あ、それと、回想モード。これ、何度やっても全キャラの最後のほうのCGが全部埋まらないんですが……もしかして、ここってもともと入るCGがなかったりするのかも。全体的なパーセンテージが表示されないので、ここに本当にちゃんとCGが入るかどうかがわからないんですよ。なんか微妙にヘンな構成。
<音楽>
劇中曲は全体的に和風で、『夕暮』とか綺麗な曲が多いのですが、やっぱりこの作品の音楽における真骨頂は、エンディングテーマ『彼方へ…』でしょう。
これ、エンディングのムービーの美しさもあって、かなり聞かせてくれる曲になっています。静かな始まり方からだんだん盛り上がっていく曲構成とかメロディとか歌詞とか、もう本当に云うことありません。CD-DAではないので聞くのにいちいちサウンドモードを起動しなきゃいけないのが面倒なくらい。
ま、もしこれをちゃんと聞きたければサントラを買いやがれってなことなんでしょうけれど……ドラマCDなんか要らないんでサントラをつけて欲しいと思うのは贅沢なのでしょうか。え? サントラ売りたいから仕方がない? まあそりゃそうだ。
で、声ですが……これはどうなんだろう。男性キャラ二人、惣一とか神崎あたりはすごく巧いのですが。まあ、茜はああいうキャラだからまだいいにしても、霧あたりが最初はすごく投げやりというか棒読みと云うか、そりゃなかろうとか思っていたんですが、スタッフロールを見て見ると、この霧の声優さんは、
『CROSS†CHANNEL』のレビューでべた褒めした七香の声優さんと同じ人なんですよね……。
まあ、この霧というキャラクター、しゃべり方がものすごく古風な上に特異なので、七香と比べると台詞回しが難しいというのはあるのかも知れませんが。後半に来るとそれに慣れてくるのかあまり感じなくなるんでまあいいと云えばいいんですけど。
<総合>
結局、どうしてもボリューム不足。これに尽きますでしょう。歴史モノとしての大作としてはちょっと飛距離不足です。
ただ、誤解して欲しくないのは、この作品、間違いなく面白いんですよ。ただ、その面白さが「大作」向きの面白さではなくて、いわゆる物語を読んで楽しむことができる作品であるという意味あいでの「面白さ」であるという違いですね。
それがゆえにどうしても後の印象には残りづらい作品ではあるのかもしれませんが、そういう良質の物語を楽しみたいと云うのであれば間違いなくオススメできる一作だと思います。
涙を流して感動するようなタイプの作品であるかどうかというと決してそういうわけではないのですが、どうしてこういうことになってしまったのか、ということが明らかになったときの感動は確かにありますから。
最後にこの作品、マニュアルのつくりが非常に面白いなと思いました。マニュアルの一部に漫画を使うというのは今までいくらでもあったんですが、この作品のマニュアルは全編漫画で表現されています。パソコンゲームのマニュアルなんか読まないよという人でも一度見てみると面白いかもしれません。
2003/10/25