05/30 「拒絶論」

 というわけで、まあなんてんですか、ここ数日日経平均がすごいことになっていて、なんていうどうよこのワールドビジネスサテライトばりの知的なはじまり方。だからそういうこと云わなきゃいいのに。しかもその基準がワールドビジネスサテライトて。
 まあとにかくそういうあれで、いちおうなんだ、見せかけ上はちょっと好景気っぽいわけです。アベノミクスですよね。もうただ云ってみたかっただけだなこれ。アベノミクス。なんだそれ。
 ところがだ、いくら日経平均が15000円を超えようが1ドルが100円超えようが、あたしみたいな末端のサラリーマンっていうかうんち虫みたいな生活を送ってる人間にはあんまり関係はないわけですよ。だれがうんち虫だだれが。
 あたしは1976年生まれでして、ちょうど小学校から中学に上がるくらいのころかなあ、バブルってやつがありましてね、そらもうすごかったですよ、当時は子どもだったし、うちも別に裕福な家ではなかったですからそんなに自分の生活がなにか極端に変わったわけではまったくなかったですけど、テレビ見れば金儲けの方法論、ジュリアナに代表される賑やかというかもはや悪趣味まで行きつくしたカネの浪費、都内の一等地の土地が坪あたり何千万円みたいな報道、日経平均なんか当時3万円超えてましたからね、そこらへんの大学生とか高校生なんかが財テクだとか株式取引だとかみたいなノウハウの本を普通に読んでて、海外旅行だとかなんだとか贅沢が当たり前になってて、まあとにかくカネが上滑りしていた世界だったわけですよ当時は。今の不況もちょっと異常だけど、あの当時もやっぱりちょっと異常だったよなどう考えても。
 んでな、そんなこんなでバブルの恩恵をまったく得ないまま成長し、高校出てどこの大学も入れず浪人して大学入って、あまりにも勉強が楽しすぎて1年間留年して5年間大学にいて卒業するころには、これでもかってばかりの未曾有の大不況ですこれ。初代就職氷河期って時代った気がする。
 でな、まあ長いことここ読んでくれてる人は御存知でしょうけど、わたしはもうあれです、ぜんぜん就職決まんなかったんですねこれ。まわりがどんどん就職先を決めていく中で、どこにも決まらないっていう恐怖ってのはこれはもうかなりのもので、当時から彼女はいないわ友達もいないわのこうどうにもならんくそったれな世の中で、まあようやく潜り込んだちっちぇえ会社でやっぱり大変な目にあったりなんかしてるわけですねこれ。
 で、大変な目にあったんで、2年きっかりでその会社を辞めて再び就職活動するわけなんですけど、またこれがな、当時もまだ不況の真っただ中で、現役の新卒たちが相変わらず苦戦してる中、2年間やそこらで辞めた不細工童貞男を採用しようなんていうおもしろい会社はなかなかないわけです。結果的にいまの会社に拾ってもらってるんですけども、それまでに1年かかってますからね、またこの1年が不安に押しつぶされそうになってたわけです。
 そいでいまですけど、まあ、多少改善されてるっぽいみたいですが、相変わらず厳しいのは厳しいということなんだそうで、新卒も既卒も転職もやはり相当に厳しい、みたいなことで、なにが好景気だと笑い飛ばしたくなるくそったれな世の中なわけですなこれは。
 かといってじゃあ仕事しないでのんびりしましょういつか決まるでしょみたいなことができればいいんですけど、そうやって結果ニートとかそういうあれになるひともいっぱいいるわけで、多くの人はそこが志望かどうかはともかくどこかしらの会社なりなんなりに入って仕事しはじめるわけです。
 この云い方はあんまり好きじゃないんですけども、いわゆる「ブラック企業」ってのがありましてね、その定義からすればあたしが最初に入ったところなんてのはこれはもう黒も黒真っ黒な感じでしたけども、えてしてそういうなんだ、もういつでもいいからウエルカムですよってのはそういうちょっと黒っぽいところが多いのもこれまた事実なわけです。
 こらもう至極単純な話で、そういう会社ってのはえてして大量に人が辞めるので大量に採用しておかないといかんわけで、それでもそういう評判が集まっちゃえば、そういうほんとに切羽詰まった人が仕方なく行くことしかないわけで、そんなモチベーションだからさらにたくさんの人が辞めていくっていうそういうののリサイクルなわけですよ。
 ……とまあ、ようやくここからが本題なのですけれど、最近ですね、職場に勧誘の電話が頻繁にかかってくるようになったわけです。ここ3ヶ月くらいですかね。
 ついでにほぼ同じ時期から会社のアドレス宛てにスパムメールってんですか、そんなんものすごい勢いで届くようになりまして、こら間違いなくどっかの誰かがあたしの名刺を売ったかなんかしたなってなもんなんですけど、まあメールなんてのは一括で削除するようにしてますからあれだとしても、電話ってのがこれがまあ非常にうっとおしいわけですね。
 家の電話なら知らない番号は取らないとかいくらでもあるんですけど、会社ですからね、そら知らないところとか知らない人からかかってくることもあるわけですよ。しかもですね、これがたとえばですよ、部署にかかってきて「部長お願いします」とか云うんならまだわかるんですけど、これが狙い撃ちといいますか、あたしをわざわざ呼び出すわけです。
 たとえばですよ、「その部署のいちばん偉い人を」って云われたら、そらもう明らかに勧誘ですからね、そんなものは適当にすみません席をはずしておりますとか退職しましたとか未来の世界へ旅立ってますでもなんでもいいんですけど、あたし単枠指定で来ちゃうとだ、これわかんないじゃないですか。もしかしたらちゃんとした用事かもしれない。向こうだって馬鹿じゃないですから「勧誘なんですけど**さんいますか」とは云わないわけですからね。
 わたしのとこに来るのは投資用ワンルームマンションというやつで、あれですね、マンションの1部屋だけを購入して、その部屋に自分が住むんではなくてそこを誰かに貸し出すことで収入が得られますみたいなことで、たいてい「年金対策に便利なお話が」みたいな出だしではじめて、まず「投資用ワンルームマンション」とは云いません。そんだけ怪しいイメージがついちゃってるんですねこれ。一昔前の先物とかそんな感じですか。
 ま、実際に普通に考えてみれば、もしそれが実際にちゃんとした利益になるんなら、その会社がマンションごと賃貸に出せばいいだけの話ですし、こんなものほとんどの人が儲からないから商売になるんでしょうしね、それによって胡散臭さも倍増していくわけです。で、胡散臭いから売れない、売れないから勧誘電話をかける、迷惑に思う人が増えて結局さらに胡散臭くなるという無限連鎖があるわけですな。
 まあ、基本いろんなとこからかかってくるんですけど、その中でも1社、熱心っていえば聞こえはいいけどまあとにかくしつっこく何度も何度もかけてくる会社があってですね、そのたびに「あなたのところから何度もかかってきてるけど、いらないから」と云って電話切ってるわけですよ。それでもかかってくるわけです。
 よくこういうので武勇伝というか、こんな面白い返しをしましたみたいなのがブログとかに載ってますけど、残念ながらあたしはそういうのはないです。ないっていうか、そういうのをやるのもめんどくさいってか、ああいうのもやっぱりある程度「ああいうので遊んでやろう」みたいな意識がないとなかなかできるもんではないですね。基本、昼間の忙しいときにかかってくるので、そんなこと考えてる暇もないんですけど。
 これってもう、「いらないです」って云ったって「ああそうですか」って電話を切ってくれるほど甘くないっていうか、「営業は断られてからが勝負」みたいな迷惑な教訓のせいで、そこからなんとか話をつなごうとしてくるわけですね。
 そらまあ、向こうだって断られるのは想定内っていうか、断られてあたりまえでしょうから、そこではいそうですかってったらまったく商売にならんでしょうし、そういうマニュアルみたいなのはあるんでしょうけどね。
 でな、話は戻るわけなんですけど、要するにあたしに電話してきてる彼らは、「断られる」ってわかってて、さらに云えば仕事中に勧誘電話をもらい、なかなか切らせないのは迷惑だということもわかった上で電話をかけて、おそらく購入者にほとんど益のない商品を売りつけるという、そういう仕事なわけですよ。かえすがえすも秋葉原とかで絵売ってるあのお姉ちゃんとおなじだなこれ。
 ある意味これってすっごい大変っていうか、なんのやりがいもない商売じゃないですか。日がな一日中嫌われて嫌がられて拒否され続けて、たぶんすごい剣幕でどなられたり怒られたりもすると思うんですよ、それってもう精神的にすっごいめげるでしょうし、ある意味友達とかにも仕事内容云いづらいとおもうんですよね。友達に云っても「ああ、あれって迷惑だよな」っていう反応が返ってくることがほとんどでしょうし。
 いやな、もちろん歩合での給料がすごくよくて、人に迷惑かけてでもカネがいっぱいもらえるっていうそれが動機だって人はいっぱいいるでしょうしそれを否定するではないですけど、とかく嫌われて否定され続けるっていうつらさってたぶん想像以上だと思うんですよね。カネのためにそこまで自分を殺し続けられるかっていえば、それってかなり難易度高いと思うんですよ。
 だからこういう業種はえてしてカネでつるっていうか、インセンティブはものすごい高いことが多いし、そういう業種の募集を見ると「20代で年収1000万」とかそういう文字が派手に踊ってるという、もうそういうものなわけですね。
 しかしですね、これがなんだ、カネが欲しいから自分を殺してでもやってますって人ばっかりじゃないと思うんですよ。たぶん上に書いたように、仕事見つからなくて仕方なくこういう仕事やってますって人も多いと思うんですねこれ。
 もちろんだから迷惑かけてもいいってことではないんですけど、こういう立場の人ってのはなんだ、ほんとにつらいだろうなあってのは想像できるわけです。
 だってあなた、想像してみてくださいよ、一日中電話かけて、にべもなく拒絶されたり話も聞いてくれずにガチャ切りされたりみたいな、ある意味電話勧誘を断る最良の手段ってのがあるじゃないですか、あたしもそうしてますけど、たぶんほとんどの人がそれで、一部どなり散らしたり、一部いちおう話は聞くけど断ったりみたいな人がいて、どれくらいの確率かわかりませんけど百人に1人くらいですかね、いちおう会って話しましょうくらいになるのかもしれませんけど、そこにいくまでに99人に拒絶される必要があるわけです。
 飛び込みの営業ってんですか、うちの会社にもアポなしで来て浄水器だの人材育成だのの売り込みをしようとする人いますけど、やっぱり話聞かないですよね基本。断られ慣れればたいしたことじゃないんでしょうけど、拒絶ってのはほんとつらいですからね、これあたしみたいなのじゃ絶対できないですよ。絶対どこかで心が折れて屋上からフライアウエイだと思います。
 まああれだ、好きですって思い切って告白して大爆笑で迎えられるとか、意を決して食事に誘ったらそれ以降メールも来やしねえとか、そういうこといっぱいあるわけなんですけど、それただ単にモテないだけなんでねえのかみたいなあれはともかくだ、人から受け入れてもらいたいってのはある意味人間あらゆる人が持っている欲望ですからね、あのときあらゆる企業から落っことされてどうしたもんかっていうあの感じってのはなかなかに忘れがたいですから、なかなかあれを繰り返せってのは酷な話ですなあ。
 まああれだ、がんばれ大学生。こんなとこ読んでる暇あったら勉強しろ。


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