ということで、基本的にあれですよ、あたしはモノの価値がわからない人間ではあるんですよ。
　いやそりゃね、もちろん明確に価値がありますよって提示されてればわかるんですけど、なんかこう世の中にはあいまいに価値が示されているものってたくさんあるじゃないですか。
　たとえばね、たとえばですけど、車とかで100馬力だから150万円、200馬力だから200万円みたいにかっちりと分かれてればああそういうもんなんだなという気はしますし、パソコンとかデジタルカメラとかそういうのもそうじゃないですか、これに比べてこういう機能が付加されているからいくら上がってこれがフラッグシップですみたいなことになるわけですよ。
　ところがですね、世の中というのはそういうものばかりではないわけです。
　いや、いちおう日本人ですから、まあ食事は基本的に米なんですけど、この米というやつがまたものすごい値段違うわけじゃないですか。
　あたしは基本的にはもう５キロで1500円とかそういうのを買ってきて食ってて別にそれに不満もなんにも感じてなかったわけなんですけど、ていうかそれに麦交ぜて食ってるくらいなんで不満も何もあったもんじゃないんですけど、昨日ついつい米を切らしてしまいましてですね、近くのスーパーに買いに行ったんですよ。
　そしたらですね、いつも買ってる安い米が売ってないわけです。店が閉店間際だったこともあるんだと思うんですけど、なんか高いのしか売ってないの。高いってもちょっと高いなあどうかなあみたいなのじゃなくて、５キロで2980円とかもういつものの2倍近い価格なわけですよ。
　いやね、米ですよ米。そりゃあね、農家の方々が丹精込めて作ったものでしょうから否定はしませんけどもね、普段の2倍の値段というのはこれはもうどう考えてもおかしい。
　そりゃあれですよ、これを食えば確実に宝くじで５京円が当たるとか、朝起きたら隣に見知らぬ女の子が寝てるとかそういう効果があるなら別ですよ、でもそうじゃないわけですよたぶん。ベースはいつもの1500円のやつと変わらないと思うんですよ。
　だいたいいつも食べてるやつだってどうでもいい駄米とかじゃなくて、いちおうそのなんだ、なんかわかんないけど大井競馬の条件戦あたりでいつも５着とかに入ってそうな感じの競走馬みたいな名前がついたやつですからね、たぶんそれなりだと思うんですよ。
　そこへきてそれの2倍の3000円の米ですよ。普段ならこんなもの見向きもしないと云いますか、ショーウインドウ越しにトランペットを見ている少年みたいにそれを見てはため息をついて優しい人が買ってくれるのを待ったりするわけですが、いやそんなことしたことねえですけどそれはともかく、今はとにかくこれしかないわけです。
　いやもうね、迷いましたよ30分くらい。たぶんあそこに万引きＧメンとかいたら確実にマークされてたと思う。あんなでかいもん万引きできるか。
　でもね、結局しょうがないから買いましたよ。3000円の米。もうね、レジで札を三枚出すときに手が震えたもの。たぶんレジにいたいつも刺身の「半額」のシールを見落として定価で計算しようとする中国人店員のハンさんも驚いていたに違いない。
　なんてんですか、その米の重いこと重いこと。なんせ3000円で誰でも聞いたことがあるブランド名でさらに特選とかなんとか賞受賞とかいろいろついてましたからね、そんななんだかわからない賞を受賞してるのなんてたべっ子どうぶつくらいのもんでしたけどもきっと権威のある賞に違いないし、そらあ重みも違ってくるってなもんですよ。むしろこれで重さが一緒だったら詐欺だね。同じ５キロだけど。
　そこで家に帰るじゃないですか、せっかくですからね、準備も念入りですよ。
　いつもは麦を混ぜた上に水道水でろくに水を吸わせたりもせずにいきなり早炊きモードで炊いて満足してるんですけども、もうそんなんじゃないですからね、当然麦は入れないし、前に梅酒を薄めるために買ってきて残ってたミネラルウオーターでといで腹減ってるのに1時間水吸わせたうえで、炊飯器も一回も使ったことがない、説明書によれば「多少時間がかかるけど美味しく炊ける」という「ふっくら」モードですよ。準備万端です。
　そんなこんなで炊きあがった時間は既に夜中の2時とかになってて、もうなんか本末転倒なような気がしますけど、そらあもう期待しましたよ。これで美味くなかったら詐欺だもの。普段19円のもやしを食ってる人間がだよ、3000円の米とかありえないじゃないですか。家は風呂なしトイレ別家賃12000円の木造築30年のアパートだけど車はフェラーリテスタロッサみたいなそんな感じですよ。
　そしたらね、なんと驚いたことに普通なの。普通。いつもの大井競馬５着のとかわんないの。いや麦交ぜてないぶんだけ麦の味はしなかったけどそれはあたりまえじゃないですか。むしろそれで麦の味したらそれはどこかおかしいわけですよ。
　いやさ、山岡とか海原とかそういうあれな人ならもしかしたら違いがわかるのかもしれませんけども、ここまでやって普通ならもう普通だろどうやっても。やっぱり米は米だもの。米がいきなりメロンになったりステーキになったりしないじゃないですか。挙げてる例が果てしなく貧乏くさいですけど。
　いやつまり、前にも書いたんですけども、結局あたしは舌がバカなんだろうなきっと。そりゃね、モノ食って美味いと思うこともあるし、同じジャンルのものでもこれは違うなと思うものだってたくさんありますよたくさんありますさ、でもそういうなんだろうな、山岡とか海原が蘊蓄たれるようなもののレベルになるとあたしくらいじゃ追いつけないんですよきっと。
　いやわかんないですよ、たとえばこれが毎日3000円の米を食ってて、いきなりそれが1500円になったら「あれ？」と思うのかもしれませんけども、上に行く分にはこれ意外とわかんないと思うんですよ。
　だってあれじゃないですか、今はあんまり聞かなくなりましたけど、ちょっと前に国産牛だと偽って輸入牛肉を売ってた、みたいなニュースがテレビやら新聞をにぎわせていたわけですけど、騙された人がすごいたくさんいたってことはですよ、とりあえず食ってた人のほとんどは気づいてなかったわけじゃないですか。今日はちょっと贅沢に国産牛ださすがにうめえなあとか云って食ってたと思うんですよたぶん。
　あれじゃないですか、オーストラリア産の肉が298円で売ってる横で、「国産」のラベルだけで980円で売ってもいいならそりゃそうしたくもなりますさ。そう考えれば、たぶんですけどもね、今でもこっそりそういうのって行われてるんじゃないかとこう思うわけです。なんかちょっと高い料理屋とか行って美味い美味いって食ってても、実はこれオーストラリア産の安い肉なんですよてへ、みたいなことってあると思うんです。
　そう考えればさ、あの3000円の米だって実は中身は1500円の米で、あたしがああこれ普通だなあって思ったのも当然かもしれないわけじゃないですか。だからこう、高いものは美味い！みたいな思い込みもありましょうし、ほんとにちゃんとした高い値段に見合うものを食べてる人が安いものを食べればこれは違うってなことになるんでしょうけども、普段安いものを食ってるあたしみたいなのからすればわかんないと思うんですよね。
　だってあれだもの、肉の種類なんかなんかわかんなくてもとりあえずスキ焼きだったら美味いもの。なんかそういうもんだと思うんですよ。
　そこへ来て米なんかもうどうだってな話ですよね。そもそもそんな強烈に味があるものじゃないですし、それでもまあ水に比べればマシではありますけど、美味い不味いがわかりづらいものであることは間違いないじゃないですか。
　まあね、調べてみると世の中には１キロで3000円の米とかもあるそうですから、そういうのになるとまた違うのかもしれません。５キロで15000円ですからね、もうそんなもの米の値段じゃないだろうってな気がしますけど。そういう米に無駄に麦交ぜて食ってみたいもんですねほんとに。
　いやまあつまり何が云いたいかってと、単に５キロ3000円もする米を買ってしまって何にも感じなくて悔しいからネタにでもしてやろうとそういうあれなわけですが。もうほんと農家の皆様に謝るしかない。実家も農家ですけど。