ということで、もう過ぎちゃいましたけども、８日であたしも無事14歳になったわけですよね。もうなんての、ある意味大人の仲間入りっていうか、そろそろ初潮もはじまる頃じゃないですか。出だしから最悪だな云ってることが。
　まあそのなんてかな、もう誕生日なんてめでたくないっていうか、寧ろ逆に危機感を感じる日になってきたので、おめでとうとかそういうのはいいです。ぜんぜんめでたくないです。ただの地獄の旅への一里塚以外の何者でもございません。別に寂しいＯＬみたいにそんなこと云って実はおめでとうって云って欲しいんでしょ、みたいなそういうあれではなく、洒落でもなんでもなくこれっぽっちもめでたくないので。
　でもあれですよね、去年なんか誕生日なんて思いっきりスルーしてますからね、まだここで触れるだけ余裕ができたっていうかそういうあれなのかもしれません。いやだからと云って別に彼女ができたのでもうそんな童貞とか馬鹿馬鹿しくて付き合ってらんないよ、というようなあれでは決してなく、なんてかもっと一つ大人の階段を上ったのだなあ。
　そろそろあれですね、いい加減女の子と手を繋ぐくらいの目標は達成したいものだとは思いますけども、なんとなく来年の今頃も同じことを云ってるような気がしないでもないのでそれはとりあえずおいとこうじゃないか。いいのかおいといて。
　しかしまあ、ふと冷静になって鑑みるに、よく32年もの間女性との縁がないまま生きてきたよなあと思わないではないのですが、しかしあれですよ、これについてちょっと審議と云うか、最近になってちょっと思い出すことというのがあってですね。なんてかあれですね、こういう暗い日にはそれくらいの明るいっていうか毒のない話題がいいやね。
　あたしは小学校に入る前、保育園に通ってたんですども、そのときにですね、女の子に好きだと云われた記憶があるんですよ。
　まあなんと申しますか、そんな頃ですからね、別にそんなことはよくあることなんでしょうけども、なぜか妙にその子とは仲が良くて、実際のカップル云々まではいかないまでも、しょっちゅう二人で遊んでいたような記憶があるんですよ。いやもちろんそんなあれですよ、お医者さんごっことか云って裸を見たとかそういうエロマンガ的なアレではぜんぜんなく。っていうかあるわけねえわなあんなこと。どんな幼児だ。
　で、その子の家のだいたいの位置とか、久美ちゃんという名前まではっきり覚えてるんですけど、不思議なことに、保育園の卒業アルバムを見返してみても、久美ちゃんの姿が影も形もないんですよ。
　地元密着型の保育園なので、その多くは同じ小学校に通っているはずなんですが、その小学校の卒業アルバムにももちろん載ってないし、そもそも小学校に上がってから、それだけ仲がよかったはずの久美ちゃんと遊んだりした記憶が一切ない。
　まあ、それだけなら単純に途中で引っ越したんじゃねえの、というところではあるんですが、保育園の下のクラスだった頃の文集にも名前がないし、アルバムの、まだ年少組だった頃の写真にも一枚も久美ちゃんが載ってない。
　こうなってくるとなんだかよくわからなくなってくるわけでして、なんと申しますが、あまりにモテないが故に頭の中で作り出した架空のキャラクターだったりしたらそれはそれであたしはそこまで切羽詰ってるのかという意味で非常に怖いんですけど、なんかそれにしては妙に記憶にリアリティがあるんですよね。これ絶対あったよ、っていう変な確信があるわけでして。
　でもそうするとアレじゃないですか、今まで女の子と手を繋いだことがないとか云ってましたけど、そのときに手ぐらい繋いでる可能性はあるわけじゃないですか。下手すれば久美ちゃん、なんて下の名前で女の子を呼んでる可能性だってあるわけで、そうなるとこれはもうここを読んでいただいている皆様を裏切ることになるわけでしてそれはもう大変なことなわけです。
　手を繋ぐなんてあれです、もう直セックスというか、非童貞の証みたいなもんですからね、これはもうえらいことなわけです。首相だったらもう即辞任くらいの勢い。こういうあれだよな、中途半端に政治ネタとか入れるの一番かっこ悪いよな。
　まあその、人間の思考回路と云うのは不思議なもので、一種のブレーカーのような役割の機能があり、あまりに辛いことや苦しいことに直面すると、自分を守るために楽しいことを考えるというそういうものだそうです。マッチ売りの少女なんかが直面したまさにアレですね。脳内麻薬とかそういうアレです。
　そういう意味においてですよ、まあこのあれだ、もうあまりにも童貞こじらせすぎて、自分の中でももう自己フォローができなくなってきて、このままだとあたしが壊れちゃう、と脳が判断してあたしに最後の夢を見させてくれてるんだとしたらいちおう納得はいくわけなんですが。すごい余計なことしてくれるよな脳。っていうかそこまで切迫してたのかあたしの女の子と手を繋ぎたい病は。
　でもですよ、ちょっと考えてみるとですよ、もう一つの可能性にぶつかるじゃないですか。
　いやね、あたしはそういうのちっとも信じてないんですけどもね、あたしは実際に昔に久美ちゃん会っていたけど、その久美ちゃんはこの世の人ではない何かだったというようなそういうあれですよね。
　尤も、あたしが勝手に脳内で作り出したというようなあれよりはよっぽど綺麗にまとまってると云いますか、物語的にはこちらのほうが美しいんですけどもね、なんかこう病院に入院してて外で遊びたいけどそれもできない久美ちゃんがいてですよ、久美ちゃんの魂だけが抜け出してきて空き地で一人遊んでいた少年のもとにやってきて一緒に遊んでいるうちになんだか仲良くなって、二人はお互いにお互いのことを好きだと思うようになった頃、久美ちゃんと「大きくなったら結婚しよう」なんて約束をして、おもちゃの指輪とかあげるんですけどね、その次の日に病院の久美ちゃんの病状が重くなるんですよね、それでもって久美ちゃんは少年の前に現れなくなって、どうしたのかなあなんて心配しているうちに大きくなって少年はやがて久美ちゃんのことを忘れてしまうわけですが、それからさらに何十年か経って、大人になった少年が世知辛い社会に揉まれて人の優しさや温もりを忘れかけていた頃、突然家に15歳くらいの女の子がやってきて、ドアを開けるなり「お久しぶりだよー！」なんて云って抱きつかれたりして、その少年は顔を見てすぐにその子が昔に遊んでいた久美ちゃんだということを思い出すんですけど、年齢がぜんぜん合わないし何事かと思ってよくよく話を聞いてみれば、久美ちゃんはあのとき一度病気で死んだんだけども、その記憶を持ったまま新たに生まれ変わった存在が今の久美ちゃんで、結婚の約束を果たすために戻ってきてその手にはあのときのおもちゃの指輪が、みたいなそんなようなところでエンディングテーマがフェードインですよね。エンディングテーマって。
　というようなそういうあれじゃないですか。なんてか、そうかそう考えればいきなり明日にでも久美ちゃんが家に飛び込んでくる可能性がないわけじゃないとそういうことなわけですよ。そうかそういう布石なのだなこれは。
　そんな後ろ向きな妄想に耽ってるからどうにもならないんですよ高御君。今年一年でせめて女の子と手くらい繋げますように。