6/16「こっくりさん論」

 ということで、時代はこっくりさんなんですよ。なんの時代だ、という突っ込みはあまりにもっともすぎるのでとりあえずおいとくとして、こっくりさんなんです。
 このこっくりさんというやつ、なぜか小学生時代とかにやったことがある、という人がやたらと多いのが特徴です。凄い人になると高校生時代にやった、とか云うような人もいて、エロゲーとかに出てくるオカルト研究会とかそういう類のあれか、萌えキャラかと突っ込みの一つでもしたくなるものですがそれはともかく。
 まあ確かに、子どもの頃近所の墓場とか廃墟に肝試しに行ったことがある、とかそういう人は多いと思うんですよ。むしろこのへんは通過儀礼というか、やっておいて然るべき、くらいの感じすらあります。
 何が云いたいかと云えば、つまるところなんてかな、幽霊心霊関係のイベントというのは、子どもの頃に多くの人が通るお約束みたいなものだとこう思うわけですよね。
 以前にも書いたような覚えがありますが、あたしは今でこそ幽霊なんてこれっぽっちも信じちゃいないと云いますか、そういう話は好きだけど信じてないというなんというかなんだそれみたいな立場の人間でしてあれなんですけども、やっぱり小学校中学校くらいまでの頃なんてのは雑誌やテレビなんかに載ってる心霊写真を見ては恐怖で戦慄していたものです。
 これはもうなんと云いますか、本やテレビが嘘をつくはずがないというそういう思い込みから来るものでして、当時1999年が見えてきたことで微妙に流行っていたノストラダムスの大予言とかUFOも本やテレビでよく取り上げられており、これもまた「テレビや本が「ほんとのこと」と云うのだからそれが嘘のはずがない」という思い込みから、片っ端からそういうオカルティックなものを信じていたわけです。
 話はちょっとわき道に逸れますけども、あたしは神社が大好きであちこち行ったりしてますけども、そういう神社や仏閣とスピリチュアリズムとかオカルティズムを混ぜて話をされるのがものすごく苦手です。
 「神社は祟る」とか、「この神社は合わないからどうしても入れない」とか、そういうのはもういいからよそでやってくれよと云いますか、オカルティストたちはどうもまたあたしとは別の方向から神社に対してアプローチしているようで、同じ神社の話をするにしても一生この人たちと話が合うことはないんだろうなという気がしますね。しますね、って云われても。
 まあそれはともかくとして、とにかく今ではそういうオカルト的な話をこれっぽっちも信じていない立場ではありますが、やはり子どもの頃は純粋にそれを信じていて、まあ普通に幽霊とかそういうのは怖い存在だったわけです。
 というのはもちろんあたしだけに留まらず、子どものほとんどはそういうものを信じていて、どのクラスにも「いや、そんなのは非科学的だよ」なんていう出来杉君のような子どもなどおりませんでした。
 となるとどうなるかというと、やっぱり色々な幽霊心霊現象が気になるわけでして、やれ女子トイレから謎の声が聞こえるとか、夜中の学校の音楽室にはなんとかとか、まあそういう怪談の定番みたいなところは一通り通り過ぎるわけですけども、当然そんなものいるわけないので何も出ません。
 そこで終わればいいんですが、それでは物足りなくなって「じゃあ霊を呼び出せばいいじゃない」的考え方なのかどうかはわかりませんけれども、そこからこっくりさんをやってみようじゃないかというそういうことになってくるわけです。ああやっと話が戻った。
 その頃、「小学*年生」みたいな雑誌とかそういうのを買うと、夏くらいの号にはよく「こっくりさんのやり方」みたいなのが普通に掲載されていました。
 最後のほうに「これをやると呪われる可能性がありますので絶対にやらないでください」みたいなことが書いてあったりして、じゃあ書くなよと子ども心に突っ込んだ記憶がありますけども、今になって同業者になってみればまあいろいろあるんだろうなあと想像も働くわけですがまあそれはともかくとしてですね。
 テレビも含めて、「こっくりさんは本当にある。でも実際にやるとヤバい」というイメージばかりが先行しているこっくりさん。やってみたいけどちょっと怖いからやめとこうでもやってみたいなあ、というループに陥る毎日を過ごしていました。
 ところがあるとき、何を思ったかふと「やってみる」ことになったときがあったんですね。
 その頃からオカルトマニア(ただし当時は純粋に信じるタイプの)だったあたしとしては、「やめとこう、狐がついたら大変なことになる」と大真面目に云って反対を申し出たのですが、しかしなぜかそのときの友人の態度はかたくなでした。
 なんというかな、ある種停滞した幽霊話に一石投じてやろうか、みたいなあれがあったんだと思います。あるいはただ目立ちたかったかどっちかだな。ほらあれだ、秋葉原で自分でエアガン撃って騒いでおきながら今になって秋葉原をよくするためにとか云って募金活動してる奴みたいなもんです。なんだあれあほか。
 とにかくもうそこまでいっちゃうと絶対やる、ということになるのが小学生ですからね、結局授業が終わった放課後を見計らってはじめることになったわけです。
 なんていうか、このへんはあたしと同じ世代の人間なら多少の差こそあれ似たような小学校での教室風景というのを体験しているのではないかと思います。なんせこっくりさんブームが来てましたからね。なにそのブーム。意味わからん。
 で、フォックス姉妹もびっくりなくらいクラスのほとんどが固唾を呑んで見守る中、覚悟を決めてはじまったこっくりさんだったわけですけども、これが驚くべきことにほんとに10円玉が動くんですよ。
 もちろん既に、ファラデーらによって科学的に証明されてるように、これは幽霊が実際に降りてきたとかそういうことではなく、潜在的無意識の為せる業なわけですが、ガキの頃のあたしらにそんな理屈通用しませんからね、これはもう狐が来たんだと大騒ぎになりました。
 だって特に意識してないのに指先の10円玉が自動的に動く(気がする)なんてのは、こんなものはもう驚き以外の何者でもありませんし、小学生の科学では解明できない何かですから、そんなものこれは間違いないホンモノだということになるわけです。もう最初にやった田村君なんて扱いがシャーマンの長みたいだった。
 で、誰かが先陣を切ると、これがごくあたりまえのものとなってみんなが今度は普通にやりはじめるわけです。どんなことでも最初にやる人間が一番勇気が要るとそういうことですね。
 それでもってやったほとんどで実際に現象が体験できるとなれば、これは小学生くらいならやっぱりやってみたくなるのはもう仕方がないというところでしょう。
 なので、ふと授業の合間の休み時間なんかを見てみると、クラスのそこここで降霊儀式が行われているという、どこの部族の集会ですかこれは、というような状態になっておりました。っていうか小学生に呼び出されてそんなに気安くほいほいやってくるなよ狐もさ。
 んで、まあこれは学校によって違うのかもしれませんけども、あたしが卒業した学校では、担任の先生が授業の合間にもクラスにいたんですよ。
 中学校へ上がると、中学では授業によって先生が違うのでその都度先生は職員室に戻るわけですが、小学校の頃は音楽とか一部を除いて基本的に全部の授業を担任の先生が見るシステムでしたから、当然授業の合間も先生はクラスにいるわけです。
 で、そうなると、先生もそのクラスのそこここで行われている秘術を目の当たりにしているわけですね。
 まあ、最初のうちは一時期のブームですぐ飽きるだろうと思っていたんでしょうけれども、これがぜんぜんそういう気配がない。気配がないどころか広がっているわけです。
 たぶん先生としてもちょっと心配になったんでしょう、ついぞある日の帰りの会で「こっくりさん禁止令」が出されるに至りました。
 でもあれですよ、これも子ども理論では、「先生が禁止するくらいこれは危険と隣り合わせで真実味のあるものに違いない」というものに置き換わり、休み時間などではなく、放課後などの先生がいない時間を見計らって行われる「闇こっくりさん」が大ブームになりました。
 すべての授業が終わった後にこっくりさんに興じる子どもたち、というのは今考えれば異常以外のなにものでもないわけでして、先生がこれを禁止にしたのもむべなるかなというか、あまりに当然の結末と云えますでしょう。っていうか寧ろ禁止にしてくれないと困る。いろんな意味で。
 そんなこっくりさんブームを終焉に向かわせたのはひとつの事件でした。
 今までこっくりさんに聴いていた事項というのは、ある意味でクラス内で誰もが知っていることというか知りえることというか、とにかくそういうようなあれでした。
 なんとか君はなんとかさんのことが好きですか?なんて聞いてみたところで、両者の情報はクラスの全員が共有しているわけですから、はいでもいいえでもどっちでもよかったのです。
 ただ、それまでの恋占いと大きく違っていたのは、「明確に答えが出ること」と「霊という万能な未知の存在を介すること」の二点です。これにより、こっくりさんは普通の占いと違う何か新しいものを得ていたわけです。
 ところがあるとき、そんなクラスの誰もが知りえないことを聞いてしまった人がいました。
 先に書いたとおり、折りしも時期はノストラダムスの予言迫るとき。幽霊心霊UFOと同じくらいに子どもたちの心を捉えてやまなかったノストラダムスの1999年地球滅亡予言。そりゃMMRも煽るってものです。
 これの是非をちょっとこっくりさんに聴いてみようじゃないかというそういうことになったのはある種自然の流れだったのかもしれません。
 中世フランスの人間が残した予言を狐に聞こうという試みそのものが無謀と云えなくもないのですが、子どもはある意味そのへん柔軟って云うか何も考えてませんからね、とりあえずそれを聴いてみようということになりました。
 いつもの定例文句を終えて「ノストラダムスの予言は当たりますか」と聞いたところ、十円玉が「はい」と「いいえ」の真ん中に来る。はてこれは何だろうということになって、「世界は滅亡しますか」と聞くと「はい」。「それはいつですか」と聞くと「あした」。
 これには教室が震撼しました。田淵が西武にトレードされたときみたいだった。だから誰向けの文章なのこれ。
 それはそうです、みんなが圧倒的信頼を置いていたこっくりさんが、ノストラダムスの予言では1999年に滅びるはずの世界が明日滅びるというのですからこんなものは騒ぎにならないはずはありません。
 めいめい暗い気持ちで家に帰り、明日どういう形で世界が終わるんだろうとか、なんかそんなことばっかり考えていてその夜は遅くまで眠れなかった記憶があります。だってあれですよ、もし世界が滅亡しないとなるとこっくりさんがウソをついてることになる、そんなことはありえない。バカだったんですね。今でもですけど。
 で、次の日。一様に暗いこっくりさんの参加者たちと、その話を聞きつけたクラスメート。数少ないその事実を知らない橋本君が「何?どうしたの?ドッヂボールしようぜ!」と元気いっぱいでしたがこちらはドッヂボールどころじゃありません。なんせ世界が滅びるのです。
 いちおう、その頃にメジャーだったノストラダムスの滅亡説というのは「核戦争説」というやつで、核戦争がはじまって核爆弾でみんな滅びるという類のものでした。
 ただ、ノストラダムスの予言通りならば破滅の時には既に第三次大戦が始まっていないとならないにもかかわらず、そんなものこれっぽっちも始まってないことにちょっとえも云われぬ不安はおぼえたものの、そもそもノストラダムスの予言では1999年に滅びることになってるんだからそれとこっくりさんを勝手にマージしちゃまずかろうというようなあれではあるんですけども、なんせ今日滅亡する世界ですからそこまで気は回りません。
 しかし授業時間が進むにつれ、普通に過ぎていく時間とやがて訪れる放課後。世界は滅びません。誰もがなんとなくもしかしたらもしかするのとちがうかなあ、と思いつつ、その日は素直に家に帰り、夜の帳とともに滅亡はやってくるのかと思っていても普通に夜が来て寝る時間になり、気がついたら朝になっていて、世界は滅亡を免れたのです。
 この日を境にこっくりさんは急激に信頼を失い、たまにやる人がいてもああそれで、みたいな反応にしかならなくなりました。
 こっくりさんそのものを否定するのではなく、「こっくりさんでも外れることあるんだ」というようなあれだったのが小学生っぽいですけどそれはともかく、この日からこっくりさんブームが急激に冷え込んでいったのです。
 聞けば、やっぱり小学生時代・中学生時代を中心に、こっくりさんをやったことがある人というのはかなり多いそうで、やったことはなくても友達がやっているのを見たとか、やってみたかったけど呪いが怖くてできなかったとかそういうのも含めるとかなりの割合になるそうです。
 もはやこうなってくると口裂け女とかトイレの花子さん並に有名キャラな気がしますが、考えてみればこれもひとつキャラを作ればエロゲーになりそうじゃないですか。トイレの花子さんはアニメになってるくらいですし。
 夕方の学園で一人、恋の行方を占うためにこっくりさんをやっていた主人公。ところが、途中で主人公が10円玉から指を離してしまった! なかなか帰ってくれないこっくりさんを一生懸命帰そうとするが一向にそんな気配はない。いよいよ日も暮れて夜の帳がおりたとき、突然主人公の前に現れたのはなんとキツネ耳の女の子だった! 彼女は云う。「予は主の所為で霊界に帰れなくなってしもうた。帰れるまでの面倒はみてもらうからの」これをきっかけに、主人公と「こっくりさん」との奇妙な同棲生活が始まる。彼が恋の行方を占った同級生の少女、神社の娘で霊が見える幼馴染みの少女、同じく呼び出されたキューピッドさん、拾ってきた下級動物霊のポチなどなどいろいろ複雑な人間?関係での学園生活がスタートした……! 笑いありほんのり涙ありの『おいでください♥こっくりさん』2008年秋発売9120円(税込)初回特典オリジナルサウンドトラック&原画集、みたいな。
 うわあなにこのすごい佳作っぽいタイトル。でもちょっと書いてみたくなった。

<近況報告>
  • > 壁おめでとうございます。今からwktkしときます。
    > 壁サークルおめでとうございます!
    > おめでとうございます。まさか壁とは
    いやありがとうございます。以前も書きましたが一番びっくりしてるのは何を隠そうこのあたしです。
    > 夏コミ行けたら大好きな郷ひろみ「ダディ」持ってくのに/行った事ないんですよね、コミケとかそういうイベント
    うーん、『ダディ』もいい感じに熟してますね! いい感じ? まあいいや。同人誌とかに興味ないとコミケはつらいだけかもですね。特に夏は。
    > 当選&壁配置おめでとうございます。/あたしゃ落選しましたがorz
    ありがとうございます。落選するとがっくりきますよねホントに。その気持ちは痛いほどよくわかります。ジャンルによってやっぱり受かりやすいとか落ちやすいとかあるのかもしれないですね。
    > 壁ですか…また一歩大人の階段をあがってしまいましたね
    体の一部だけ大人になってないところがあるけどながっはっは。もう最低。
    > 「脳内革命」でもいいですか?
    またみごとにいい感じに100円コーナーの常連ですねそれ。いやもう何度も云いますけどもあなたのお気に入りの本をですね。そりゃ『脳内革命』がお気に入りだというのならわたしにはそれがほんとかどうかを確かめる手段はないですよ?
    > エロゲーって絵のついた小説みたいですねグハ!(゜o゜(☆○=(-_- )ゲシッ
    いやある意味そのものだと思います。絵と音楽がついた小説。いや、逆に小説と音楽がついた絵かも。
    > 上島竜兵?
     押すなよ! 絶対押すなよ!
    > 妖刀村正を23000円でゲットしました〜!
     すげえ! ボルダック商店ならその何倍もするのに! 売った瞬間即二倍で店頭に並ぶけど!
    > Xマスやバレンタインで結ばれたカップルが別れないとは限らんのですよ〜
     何だよう急に。人の夢を壊さないでおくれよう。いやまあ普通に別れるけどね修学旅行カップルみたいなもんでね。雰囲気に流されたカップルは長続きしないのさ。なにこの。なに。
    > ガソリンまた値上げだそうですよ。
     ハイオク指定のあたしはもう既に死にそうです。ほんと政治屋のみなさんはどうすんでしょ。なにもしないか自分が損するわけじゃないもんな。


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