ということで、別にあれですよ、期待されても困るんですけども、怒ったりとかはしてないですよ。今更ここに来てバレンタインデー反対とかやってるのってなんか却ってアレだよね。別にやりたいならやればいいじゃない。っていうかそんなものはどうせあってもなくても同じ日なんだから特に触れるつもりもないわけですけど。
　そんなことよりですね、弁当なんですよ、弁当。
　高御さんはいちおう会社員でして、いえまあいわゆる皆様が想像されているような背広で通勤電車に揺られるようなサラリーマンを想像されると困ってしまうわけで、思いっきり私服で昼間の12時過ぎに『ピンポン！』の福澤朗あたりを横目に出勤しているようなもう社会生活には一生適合できないであろう社会人生活なわけですけれども、そんなんでもいちおうは会社に行ってお給料を貰って生活している人なわけです。
　その会社にですね、当然トイレがあるんですけども、このトイレに、なぜか二日連続で弁当が捨ててあるんです。
　と云うと、例えばゴミ箱にコンビニ弁当とかが捨ててあるのかなあというようなそういうあれを想像すると思うんですけども、そんな甘いもんじゃなく、なんていうかな、明らかに手作りの弁当の中身だけが、大便器の中にそのまま捨てられているわけです。
　これっておかしいっていうか、客観的に考えればありえないじゃないですか。
　別に弁当捨てたければなにもわざわざトイレに捨てることはないし、最悪トイレに捨てるとしてもちゃんと流せばいいものを、まったく流さないでそのまま沈んでる状態なわけですよ。
　昨日は弁当箱の形にきっちりとした型のついたごはんがまったく手付かずのまま大便器に放り込んであったんですが、今日は玉子焼きが、一つは便器の中に、もう一つは便器の外に転がっておりました。
　いやね、最初はあれなんですよ。連休明けだったから、それで間違えて連休中会社に置きっぱなしにした弁当を腐らせちゃってトイレに捨てたのかなあと思ったんですよね。まあ、そういうことがあってもおかしくないかなと。
　ただ今日の玉子焼きはあきらかにおかしいじゃないですか。玉子焼きだけ残すなら弁当箱の中に残せばいいし、第一便器の外に転がってるのとか不自然すぎる。
　あたしらみたいなのからすれば、手作りの弁当なんて神の施しと申しますか、例えば好きな女の子が今日はお弁当作ってきたの、なんて恥ずかしそうに云ったりして、教室で食べるとなんだか気恥ずかしいから屋上で食べる。玉子焼きなんかはちょっと黒こげになっっちゃってるけど、それでもおいしいなんて云って幸せな気分になる、そういうもののはずです。お弁当というのは、そしてお弁当の中でも玉子焼きというのは明らかにそういう幸せの象徴のはずであるべきなのです。
　ところがこれはどうだ。そんな幸せの象徴玉子焼きが、あろうことか便器の中に捨てられている。あるいはご飯が手付かずのままトイレに捨てられている。飽食ニッポンとかそういう福澤朗のようなあれはともかく、これ明らかに怨みの篭った捨て方だと思うんですよ。
　もしかしてあれか、一生懸命お弁当とか作ってきて好きな男の子に渡したら、「こんなもの作って来いなんて頼んでねえだろ」みたいなそういうあれで弁当とか目の前で捨てられるとかそういう類のあれか。それで女の子は泣きそうになりながらも笑顔でそれを拾うとかそういうような。『いたいけな彼女』より抜粋でございますけども。
　あるいはあれですよね。この人は行きがけに、いきなり知らない女の子からお弁当を貰うんですよ。女の子は一生懸命作ったお弁当なんだけど、貰ったほうは気持ちが悪いじゃないですか。だから捨てたと。そして二日目の今日もやっぱり渡されて、やっぱり捨てたと。それなら辻褄が合うじゃないかなんてひどいことをするんだ少女のいたいけな気持ちを踏みにじるんじゃない！ 誰だか知らないけども。
　しかしさあ、こちとら男子校育ちですから、そういうこともなかったわけですよ。お弁当を作ってきたから一緒に、なんてそういうのはもう手の届かない憧れ以外の何者でもないわけでして、ましてやなんとなく玉子焼きというのはそういうのの象徴なようなあれもあるわけでして、そこへきてこういう光景を見せられるとどんな事情があるか知らないけどもショックではあるよな。それ以上になんだかよくわからなくもあるがな。
　しかしまあ、弁当を捨てるという行為そのものがなんだかよくわからないというか、要らないなら残しておけばいいものを何か残せない事情でもあるのか。残すとママに怒られるとかそういう類のあれか。それはそれで嫌だけども。それでもトイレにあんな無造作に捨てることはないと思うんだ。
　これで明日も捨てられてたらなんかどうしようって感じだな。