ゆりね 〜おねえさまがおしえてくれた〜(Cage)
項目 | シナリオ | 絵 | システム | 音楽 | 総合 |
ポイント | 3+ | 3+ | 3+ | 3+ | 6+ |
シナリオ:渡辺ヒロシ/秋谷里夫/秋史恭/田中一郎
原画:むにゅう
音声:フル
主題歌:有(エンディング:『イバラ・ティアラ』)
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<シナリオ>
姉の突然の事故死で心が壊れてしまった母親は、弟を姉・奈月として見るようになってしまった。その母の希望に応えるべく、弟は姉・「奈月」となって、全寮制の女学園に通うことに……という展開から始まります。
いくらかわいくても男の子が女学園に普通に入学してバレないわけがないだろ、みたいなもっとも基本的なところは「そういうもの」として置いとくとして、シチュエーションの書き込みはさすがにお手の物な感じ。男の子が女の子として暮らす上でこんなことが困るとか、こんなことが恥ずかしいとか、そういうことの描写ですよね。これは流石に巧いです。
例えば、主人公が授業中にエッチな気持ちになって勃起してしまったと。スカートだから、それがものすごく目立つわけです。しかもそのとき間の悪いことに先生に当てられて前に出て板書きさせられることになってしまった、みたいなシチュエーションですね。それを一所懸命隠そうとしたりする、みたいな描写があったりします。
ただ「かわいい男の子」が好きだというようなあれでもそうですし、主人公に思い入れてしまうタイプのプレイヤーならば、アダルトシーンじゃなくてこういう日常でのトラブルのほうがむしろ「抜ける」かもしれません。いきなり下品な云い回しで申し訳ないのですが。
このへんはやはり、同シチュエーションの作品を何作かリリースしてきたブランドだからこそ「わかってる」というところもあるのでしょう。こういうところの日常では当たり前に女の子として過ごしていて、いきなりエッチの時だけ「ボク男の子なのに」ではやはりちょっと軋みが出てきてしまうでしょうから。
物語自体に目を向けてみると、冒頭にも書いたように、設定のベース自体は結構重いです。なんですが、実際のところ物語の中にはさほどそれが生かされているわけではありません。
一応、主人公やそのまわりの人々はいろいろと葛藤があったりもするのですが、非常に小ぢんまりとしているというか、深みが圧倒的に足りない気がします。
なんと云うか、問題が発生してからそれが解決するまでのプロセスが非常に浅くて、道に穴があったからじゃあ埋めましょう、というそれだけで終わってしまうわけですね。
そこをどう解決するか、解決するに当たってどう展開させるかという部分がちょっと不足しているように思います。渚や光琉あたりのシナリオだとまだ若干の起伏もあるのですが、特にカレンあたりは盛り上がりどころがわからずに終わってしまう感じがどうしてもしてしまうのです。
ただ、物語面においてちょっといいなあと思ったのは、たくさんのイベントを突っ込んで盛り上げる形式を取るのではなく、数少ないイベントを軸にして掘り下げる形式を取っていることでしょう。
これだとプレイ後のボリューム感はちょっと不足気味になるのですが、反面、話が散逸しない分だけ、その物語がどういう話であったか、そのキャラクタはどういうキャラクタであったかということの説得力を持つことができるようになります。
ひいては、これがキャラクタを立たせることにもつながるわけですから、ある程度の思い切りが必要であるとは思うのですが、これはこれでちゃんと作品を立たせる要因になっているように思うのです。
と、ここで本来であれば、もう少し主人公まわりの設定を生かせば物語的にも面白いものになったと思うのですが、このへんは云っても仕方がないことではありますでしょう。もしかしたらそれはいたずらにボリュームだけを積み増しするだけになりかねませんし、求めるものをどこに持ってくるかの違いなだけな気がします。
結構キャラクタが立ってるのもまたひとつのポイントでしょう。いわゆる「百合モノ」としてみれば非常にステレオタイプなキャラクタ設定なのでしょうけれども、台詞回しや振る舞いによってそれぞれがちゃんと一個のキャラとして立っています。
脂っこいところで云うと凛・蘭、かなりの変化球ではありますが渚あたりは特にですね。さらには主人公の奈月がそれ単独で強いキャラなので、作品としては割と引き締まっている印象を受けます。このへんもまたこの作品のポイントでしょう。少なくとも、終了後にすぐにキャラクタの名前を忘れてしまうような作品ではないのではないかなと思います。
アダルトシーンについてはほぼ文句なしなのではないでしょうか。
1キャラクタごとの回数も多いですし(なんせ、後半に行くとその半分以上がアダルトシーンなんてのも珍しくありませんから)、何より「女装した主人公がいろいろ」というシチュエーション作りの巧さはもう慣れたものでしょうから、ただエッチするだけではなくて、そのシチュエーションを生かしたシーン展開が多く盛り込まれているのは流石です。どちらかと云えば、主人公側が「受け」主体になっているのもこのあたりの演出なのでしょう。
ついでに、先にも触れたように、「アダルトシーン以外のシーンもエロい」のもポイントでしょうか。このあたり、やはりシチュエーションに対する徹底的な巧さを感じずにはいられません。
物語的な面白みはほとんどありませんが、このシチュエーションが好きならばそういうものをひっくり返して楽しめるシナリオ展開な気がします。
<CG>
ちょっと頭が大きいのが気になるといえば気になりますが、基本的にそのへんはロリキャラの頭身ですので違和感があるというほどではありません。
もちろんロリ絵が苦手だとかそういうあれであればちょっとしんどいということになりそうですが、そうでなければ割りとすぐになじめる絵柄だと思います。CG枚数は結構豊富で、アダルトシーンから普通のイベント絵までなかなか充実してますし、悪くありません。
主人公が「女装の男の子」ということで、そのへんになかなか抵抗のある向きもあるとは思いますが、見てくれに関しては完璧に普通の女の子ですので特になにかひっかかるところがあるではないでしょう。それがいわゆる「女装美少年ファン」がどう取るかは微妙なところではあると思いますけれども、ぱっと見た感じで男だとわかるようなアレではさすがに引きますでしょうし。
<システム>
普通のアドベンチャーシステムで、何か目立ったところがあるわけではないのですが、マウスのクリック設定を任意に設定できたりと割と過不足無くいろいろなことができます。右クリックを通常のスキップに、真ん中のホイールクリックを選択肢までのスキップにしておくと結構快適に使える感じでしょうか。
特にバックログ周りの処理が優秀で、バックログで過去のテキストを読むと、それに合わせて背景やキャラクタ立ち絵などもちゃんと切り替わる仕組み。このあたりの処理は結構痒いところに手が届く感じでしょうか。全体的に悪くありません。
ただ、CGモードを開くと「ファイルがオープンできません」みたいなエラーメッセージが出てそれがちょっと気になります。別にエラーは出ても普通に動いてるからなおさらよくわからないんですが。
<音楽>
正直な話、そんなに印象に残る音楽、というわけではないと思います。曲数もあまり多くありませんし、曲自体にもそこまで力が入っているとも思えません。これはまあよいでしょう。
エンディングには歌が流れまして、これのボーカルが畑亜貴さん。さすがに上手くて、この歌は結構聴けます。なんとなく不思議な感じのメロディが印象的。サビ部分は何度か聴いてるうちにちょっとクセになる感じがあります。
声は全体的にハイレベルです。違和感のあるキャラクタが特にいないのはもちろんですが、結構キャラが立ってる感じがするんですね。
特に主人公の奈月はよいです。エッチなときにはエッチに、普段のシーンではかわいらしく(男の子ですけど)というそのへんのキャラクタがしっかり演出されてる感じでしょうか。
<総合>
Cageブランドと云えば、ちょっと前まではいわゆる「ロリエロゲー」の大家だったように思うのですが、いつのまにか「女装美少年エロゲー」の代表ブランドになってしまいました。
そんなジャンルあるのかどうか知りませんが、もしあるとすれば間違いなくこのブランドはその代表トップランナーであることは間違いないでしょう。なんせ、この『ゆりね』をはじめとして、その多くの作品に女装している可愛い男の子が登場しているわけですからこれはもう筋金入りです。
TinkerBellの『はなマルッ!』のように、こういうキャラクタを登場させると怒るファンも多くいるわけですが、既にこのブランドに関しては「そういうものだから」わかって買ってるファンが多いというのはある種強みであるかもしれません。ジャンルがマイナーであるがゆえになおさらです。
とは云っても、2005年あたりから急激に増えてきた「女装少年モノ」は、ある意味で主流にはならないにせよひとつのムーブメントにはなるかもしれないなあなどと思いつつではあるのですが。
あらゆる意味でこの作品、「主人公が女装の可愛い男の子でその子が女の子から責められる話」という、ここまでやるか!と云うか、あらゆる意味でそのひとつの集大成と云えるかもしれません。
「実は男の子でしたというキャラが一人いる」とかではなくて、もう「主人公が女装美少年」であって、さらにそれが前提の設定としてそこにあるわけですから。これができるのが、ある程度の礎を築いてきたこのブランドならではと云えるでしょう。
ブランドの強みを生かした作品作りというのを「単調」と非難するか、あるいは「ブランドの色」であると評価するのかは人によって分かれるところだと思いますが、個人的にはこういう特色を強く押し出した作品というのがもっとあってもいいのかなと思います。流石に今「純愛のみ」とかだと色をつけるのに苦労するでしょうが、どうせアダルトゲームなんだから、一種の変態的嗜好(と云ってしまっていいものかどうかはわかりませんが)を押し出すのは「アリ」でしょう。
ということからすれば、「可愛い女装の男の子が好き」とか、「女装させられて女学園に入学することに、なんてシチュエーションが好き」という人からしてみれば、おそらく安心して楽しめる作品だと思います。上にも書いたようにシナリオ的な面白さはさほどありませんが、それでもやはり作りなれたシチュエーション作りは、ツボをしっかり押さえたモノであることに間違いはないでしょうから。
逆にそうでない人には相当きついです。だって、男の子なんですから。まあ、いくら男の子とは云っても見てくれは女の子そのものですから、そこまで抵抗あるものかどうかは微妙なところですが、それでも女装はなあ、という人も多いはずで、そういう人にはお勧めはしません。そんな人はそもそも手にとることもないでしょうけれど。
とまれ、「わかってる人だけがわかる」作品であることには間違いありません。それは考えて理解するものではなく、「好き」「嫌い」の感性のみに依存するものでしょうし、それはそれでいいのだと思うのです。
でもって、とりあえずもしやってみることがあったら、渚のシナリオで「マジかよ」と心の中で呟いてみてください。
2006/02/15
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