雪語り (Tarte)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント2−4−2+4+6−
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

-泣けない泣きゲー-

 新ブランド、Tarteのデビュー作。雪女伝説のある雪山にスキー旅行に行くことから始まった、ちょっと不思議な物語です……が、これ、とにかく評価のしづらい作品です、結論から言うと。
 まず、漂ってくる雰囲気はモロに泣きゲーなんですよ。で、実際、冬の雪山のちょっとどこか寂しげな雰囲気というのははっきり伝わってきます。ここでまあ雪女の伝承と絡めた、主人公の甘くて切ない恋物語、と言うと、これはやはりどうしても泣きゲーを想像せずにはいられないものですが、この雰囲気作りはシナリオや文章によるものではなく、その殆ど全てを音楽に依存しているので、これがどうもイマイチちぐはぐになってしまっています。
 肝心かなめのシナリオですが、これはまあ、正直、ちょっとどうかなあというのがあります。まず表現技法からして、声が無い男キャラに関しては、誰が喋っているのかきわめてわかりにくいというのがあるんですが、それ以前に、物語というのは、最初はゆったりとした日常生活を描き、ふとしたキッカケでその中に現われた非日常をクローズアップして描き出すことで完成されるもので、ここにはそれを見せるに必要な波というのが存在するのです。なのですが、この作品、その波がまったくありません。確かにシナリオ自体は大きく揺れています。しかし、それを表現するひとつひとつの文章があまりにもあっさりしていすぎて、盛り上がるに盛り上がれないのです。極端な話をすれば、「今こんなことがあった。俺はこう思った。次にこんなことがあった。こう思った。」というのの繰り返しで、それが最初から最後まで続きます。展開もあまりに唐突で、突然主人公が幼なじみの女の子が好きだったことに気が付いて告白してみたり、突然なんの脈絡もなくいっしょに行動していた女の子を好きになったりするのです。そこにはきっかけとか理由とかそういうものがなく、本当に気が付いたら好きになってました、えっちしちゃいました、というような、ヤッツケにさえ見えてきてしまいます(というか、明らかにフラグ立てがおかしいところがあったんで、もしかしたらバグかも知れません)。そこに至るまでの過程とかは一切描かれないので、第一印象以外でよかった女の子以外に可愛いと思うこともできないし、何より物語の世界に没頭できません。オチや展開が読めてしまうというのは或る程度仕方が無いかなとも思いますが、あまりの起伏の無さと、あまりの短さに、本当に「いつの間にかエンディングクレジットが流れてました」ということになってしまうのです。奥の深そうなシナリオに期待していただけにこれはちょっとガッカリでした。さらに、フラグや選択肢もあからさまに不自然なものが多くて、やっていてなんだか興ざめもいいところです。幼なじみの女の子に、いつものように「一緒に帰ろう」と誘われて、「なんとなく学校に残りたいから一緒に帰らない」などという展開は、はっきり言って不自然以外の何者でもありません。
 次に絵ですが、これはまあ個人的には好み。一枚絵はかなり可愛いです。背景も丁寧でこのへんに関しては文句はありません。ただ、立ち絵があまりに少なすぎて、「かまくらを作る」というときになぜかスキーのストックを持ってるとか、部屋の中でスキーウエアに着替えたときになぜかストックを持ってるとか、ストックを消したパターンの絵を一枚用意するだけで解決できそうな手間を惜しんでしまっているのが悔やまれます。
 システムはいわゆる普通のアドベンチャーゲーム形式で、セーブの数はかなりありますが、正直、5つもあれば十分でしょう。はっきり言って、死ぬほど簡単で素直なフラグ立てに、攻略に迷うことはほとんどありませんから。セーブをした回数というのがカウントされるんですがこれは特に意味はないようです。
 スキップは既読のみ可。未読部分はCTRLキーでもスキップできません。間違いがなくていいといえばいいんですが、しかしこのメッセージスキップが曲者で、メッセージスキップ中にSEが鳴ると、画面が大きく切り替わるまでそのSEが鳴りつづけるのです。例えば読み飛ばし中に目覚まし時計のアラームが鳴ると、そのままにしておく限り部屋を出てもアラームの音は聞こえっぱなしです。速度は速くていいんですが、このへんがちょっと気になると言えば気になります。
 なんか文句ばっかり言ってますが、この作品で手放しで誉められるところがあるとすれば、それはずばり音楽でしょう。歌二曲を交えても数はそんなに多くないのですが、冬の雪山を表現するにふさわしい、静かで優しい、それでいてどこか寂しげな雰囲気の漂う曲が作品を彩ります。正直、やや役不足なシナリオ表現を補うかのような、見事な曲作りだと思います。声に関しては、いわゆる「女性のみフルボイス」で、やはり男性キャラに声がないことが大きく雰囲気を壊すことになっています。エロゲーだから声は女の子だけでいい、なんて思ってるのだとしたら、それは大間違いです。ゲームを作るというのは世界を作るということなのだから、声を入れるなら通行人Aに至るまで徹底的に入れるべきだし、予算時間その他諸々の都合でそれができないのだとすれば、いっそのこと声なんか入れないほうがいいです。エッチ重視なら「女の子のみフルボイス」でもいいのですが、シナリオ重視の場合、そうでないと、漂う違和感は拭いきれません。
 あっさりしすぎたシナリオに引っ張られて、どうも今ひとつ佳作止まりの作品というのが感想でしょうか。泣かせたいというオーラは感じるんですよ。展開からして、どう、ほろりとくるでしょ?という展開が繰り広げられますから。でも、この淡々と、なにか起きているのになにも起きていないような冗長な表現が、作品を退屈なものにしてしまっているような気がします。いろいろ勿体無い作品ですね、これは。

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