さよらなエトランジュ (CLOVER)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3+3+7−
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

<シナリオ>
 冷凍催眠装置によるコールドスリープから目覚めた主人公。その世界は彼がもといた世界から200年後の世界だった……というはじまり。これ自体はものすごく美味しいシチュエーションで、なんだかドキドキさせてくれます。
 この作品、一人のキャラクターごとにシナリオが三章立てになっていて(といっても、一章は全キャラ共通のようですが)、実際のところ第一章はかなりそういう雰囲気が満ち満ちた、いい感じの作品なのですよ。なんていうかな、自分と実際に自分がいる世界のギャップみたいなのが結構見事に演出されていて、これからどう展開するんだろう、ってのでドキドキさせてくれるわけです。
 なんですけど、第二章になるとこれがいきなりフツーの学園モノになってしまうんですよね。第一章の前フリがほとんど関係ない感じで、あれはいったいなんだったの?ということにどうしてもなってしまいます。
 で、まあ第二章でいろいろな女の子ごとのエピソードがあっていったんは落ち着くものの、第三章にまた一波乱……という展開なんですけど、晴香のシナリオ以外ではほんとに第一章の微妙なエピソードが生きていません。
 というか、晴香以外の話だと、コールドスリープのコの字も出てこないんですけども。つまり、なんだ、普通の学園モノにちょっとした不思議要素のプラスアルファでもよかったじゃん、みたいな肩透かしは正直ありました。
 ただ、まあそういうことを考えずに見れば、実は結構それなりに話としては面白かったりします。
 これはそのシナリオとも関連するのですが、特筆すべきなのはそのキャラクターが非常に魅力的に書かれていることでしょう。
 設定自体はそれほど目新しい設定であるというわけではないんですけれども、メインキャラクターの晴香はもちろん、サブキャラクターを含めたそのほかのキャラクターもものすごく魅力的です。サブキャラクターってのが女性キャラは勿論、男キャラもまた魅力的なのは凄いなあと思いますね。
 特にオカマ喋りがなんとも云えない友人・薫。ゲームを始めたばかりのころはどうしてもなんじゃこいつは感でいっぱいになりますが、この違和感はすぐに馴染んできて魅力に変わってくると思います。
 ちなみに反面、どうしても好きになれなかったのが主人公の剣崎透でした。まあ、こいつの場合はキャラクター自体がそうだから仕方がないのかも。一応、ちょっと不良入っててぶっきらぼうで喧嘩っ早いけど頭も良くて、みたいなキャラクターで、見ればああ、かっこいいなあというのがあるんでしょうけれども。会話の端々に出る台詞の下品さがどうしても若干鼻につきます。
 で、まあ、それはともかく。そんなキャラクターたちの中でも(あくまで個人的にですが)ひときわ魅力的なのが奈緒でした。
 ネタバレになってしまうのであまり細かくは触れませんが、この奈緒のシナリオはそのキャラクターの書き込みが巧くシナリオに反映されている印象を受けます。
 奈緒は外面では乙女チックな優等生を演じているものの、実はちょっとヒネた、乱暴なところがあって……という、んー、どっかで見たなあと云えなくもないキャラクターではあるんですが、これが実にシナリオの中で生きてるんですよ。
 ま、エピローグというか、物語の転と結の部分はちょっと物足りない部分はあるんですが、その真中のエピソードですね。承の部分がとにかく素晴らしい。奈緒というキャラクターを物語の中で無理なく書き切っている感じです。
 でも正直、偉そうな云い方を許してもらえるならば、ちょっとツメの甘さというのかな、そういう惜しい点が目立った気はします。
 まず、諸所に目立つ台詞回しのアラ。たとえば奈緒がやたらと会話の頭に「うっさいわね」をつけるんですが、これはキャラの口癖みたいなものを狙った演出なのでしょうか。そうだとしてもちょっとここまでやられるとちょっと微妙かなあ。
 別にそれ自体がどうこうというんじゃなくて、なんかもうここまで「うっさいわねえ」だと既に会話が会話として成立しづらいというか、ちょっとした軋みみたいなものを感じてしまうんですよ。
 特にこれ、わざと狙ってそうしているのかもしれませんが、なんとなく自然とこうなってしまった感じもちょっと受けたので尚更気になりました。逆に杏や晴香あたりは台詞自体は結構アレなのに嫌味も違和感もなかったんで、やっぱりわざとなのかなあ。
 晴香は、「みんなにっこりさんだよ」みたいな結構いかにもな系列の台詞を連発してくれて一見実に鼻につきそうなんですが、このへんメインヒロインだけあって実に気を使って構成されており、驚くほどナチュラルです。
 まあ、それでもこういうタイプのキャラがどうしてもダメって人にはダメかもしれませんが、ってそんな人は買わないか、この作品は。
 で、もう一つはやっぱりいろんなエピソードに対する結論の甘さ。なんとなく未解決のままの謎が多いというのもそうなんですが、それはまあ想像オチであったということにしておくとしても、エピローグがあまりにあっさり。盛り上がる部分と、それが解決した部分とがあまりにアンバランスで、ありゃ、もう終わり?みたいな違和感はどうしても残ってしまいます。
 まあ、これもそういう演出だと云われればそうなのかもしれませんが、この際学園生活に主軸を置いたほかのキャラはおいておくとしても、晴香のシナリオは主人公が自分の過去を取り戻すというまさに作品全体の「見せ場」なわけで。これをはい解決しちゃいましたみたいなあっさり演出だと、ちょっと勿体無いかなと思ってしまうんですよね。
 一章から二章、三章へ繋がる構成が巧いのと、文章のテンポはかなりいいので、冗長な感じをあまり受けないだけに非常に惜しいです。
 エッチは……あんまり期待しないほうがいいかな。シーン自体があまり多くないというのもあるんですが、描写もそれほどそっちに偏っているわけでもありませんし。ま、さすがにこの作品にそういう要素をメインに求めてプレイする人というのはそれほど多くはないとは思いますが。
 なんと云うか、シナリオに関しては全面的に「惜しさ」が目立つ感じはありました。決してつまらないわけではないし、キャラクター描写は上にも書いたように間違いなしに魅力的なので、それだけに、ってとこですね。

<CG>
 立ち絵に関してはちょっとキャラによって顔立ちが乱れることがありましたが(特にケイ先生。顎に手を当てている「困っちゃったわ」のポーズのときと、髪の毛をかきあげているときのポーズではもうこれ別人です)、基本的にはいい感じ。奈緒が魅力的なのはこの立ち絵の表情の豊かさもありますしね。
 もちろん奈緒だけじゃなくて、この立ち絵での表情の豊かさはなかなか見ていて退屈しません。
 一枚絵に関しても、これまた非常にいい感じです。透明感溢れる作風が、この作品そのものと見事にマッチしています。
 で、また奈緒なんですが、奈緒の屋上でお弁当を食べてるときの一枚絵はなんだかもうとんでもなく魅力的なのですよ。これはもう結構本気でお気に入りだったりします。ただ、まあ、この手のゲームとしては(晴香以外のキャラの)一枚絵があまり多くなくて、ちょっと残念ではあるんですけど。晴香好きには何の問題もないことだとは思いますが。
 あとは特筆すべきは、キャラクターごとにアップになったときの絵ですね。キャラがアップになるとちょっとコミカルな、線の太いタッチの絵に変わるんですが、これが実にいい味出してます。正味、一枚絵とかよりもこっちのほうが楽しみだったりもしますし。
 で、これまた奈緒のアップ絵が微妙に可愛いんだこれが。これはもう見てもらうしかないかな。この作品、絵に関しては全面的にお気に入りです。

<システム>
 演出面では素晴らしいです。画面の中に画面を出すことで動きをつけているんですが、これが実に自然で効果的。静止画像なのに動きが感じられて、これもまた流を冗長にしていない大きな要素であると云えますでしょう。
 ただ、その前のシステムがどうも微妙。CTRLキーのスキップは既読未読判断なしのスキップで、スキップボタンでのスキップは未読メッセージでちゃんとストップする形式の使い分けができていたりとなかなか親切なのですが、たとえばバックログから右クリックでゲームに戻れなかったり、セーブ・ロードの際にいちいちシステムメニューを開いてそこから「SAVE」「LOAD」を選ぶ必要があったり、微妙に不親切なところが引っかかります。
 ま、ある意味ではこの程度のことなんで、気にならないといえば気にならないことではあるのかなあ。でもこういうのって結構テンポが阻害されちゃったりするので、やっぱりちょっと微妙かも。バグとかは一切なかったんで、このへんは安心です。

<音楽>
 あんまり曲自体は印象にないんですが、この作品においては、声に関してはまず間違いなく評価されていいポイントです。
 主人公を除く男性含めたフルボイスというのも個人的には非常に好感度大なんですが、それにさらに非常にみんな巧いんだ。特に奈緒。またかよって声が聞こえてきそうですが、奈緒の声はものすごく自然で嫌味がなくて魅力的です。ころころ変わる奈緒の感情を見事に演じてる感じ。
 もちろん他の声優さんもみんな巧いです。杏の気弱な女の子を見事に演出する弱々しい声とか、薫のあまりに自然なオカマ声とか(これがある意味一番難しいのではないかと思いますが)、ハズシがありません。
 ただ晴香が……技術的には申し分ないし声のイメージもぴったりだし、慣れてくるとそうでもないんですが、最初はなんというか微妙な白さというのかな、なんとなくわざとらしさみたいなものを感じてしまいました。
 上にも書いたトンデモ系の台詞部分にそういうのが漂うのはある意味無理のないことなんですが、どうもそれ以外のところで。どうもあんまり台詞とかキャラクターとかの割には、声の起伏が足りない気がしてしまうのですが。

<総合>
 ほんとに惜しいです。いろんなところで。なんというか、他と同じようなストーリーのゲームにはしたくないというのははっきり伝わってくるんですが、それが逆に一つ一つのエピソード部分に歪を作ってしまっている……ってな印象。
 ただ、かえすがえすもつまらない作品ではないということはここで強調しておきたいところです。プレ情報でキャラクターを見て好みのキャラがいたら間違いなくハマれるでしょうし、文章のテンポやストーリーも(まあ、最初のエピソードが生きているかどうかは別にして)綺麗にまとまってて好感が持てます。
 あとはまあ、詳しいことはわかんないけど、メーカーの「三本同時リリース」の部分で商売的にちょっと損をしちゃったかな……正直、もうちょっと評価されてもいい作品だと思うんですが……。これ、気になった方は是非とも一度やってみて欲しい一作ですね。

2003/3/18

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