サナララ(ねこねこソフト)
項目 | シナリオ | 絵 | システム | 音楽 | 総合 |
ポイント | 5+ | 5 | 4+ | 5 | 9 |
シナリオ:片岡とも/中森南文里/海富一/木緒なち
原画:藤宮アプリ/闇野ケンジ/秋乃武彦/あんころもち/司ゆうき
音声:一部
主題歌:有(エンディング:『サナララ -花咲く月曜日-』/挿入歌:『春風』)
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<シナリオ>
人は誰でも一生に一度、「どんな願い事でも叶うチャンス」が訪れる。その「チャンス」を叶えてあげるのは「ナビゲーター」と呼ばれる人の役目で、この「ナビゲーター」は、願い事が叶うとそのことを忘れ、さらに願い事が叶った次の人に受け継がれていく……というのをベースに描かれる、4本のオムニバスストーリーです。
この『サナララ』では、話自体に例えばものすごく大きな展開があるとかどんでん返しがあるとか、そういう仕掛けはまったくありません。なんと云うか、直球が狙ったところにぴったり収まるような、すごくストレートな話です。
だから先を読んでしまおうと思えばいくらでも読めますし、実際にこうなるんだろうなあと思ったそのとおりの展開になります。なんですけれども、ここで、それだからじゃあ話に起伏がなくてつまんない、というわけではありません。
その中での完成度が尋常じゃなく高いから、狙ったとおりの話になっても、やっぱりエピローグではちょっとぐっとくるような展開へちゃんと持っていってくれます。
ねこねこソフトが巧いのは、『みずいろ』でもそうだったのですが、本当にこういう直球での勝負を挑んできて、それは確かに先が読める展開ではあるのですが、それでもちゃんとその中で話を完結させてしまうことなんだと思います。
そういうなんというか、「仕掛けのない展開」で魅せると云うのでしょうか、そういう手段で物語を作りこむことに関して、このねこねこソフトというブランドはとんでもない完成度を以って作品を作り上げてくるのです。
哲学的なギミックとか、そういうのが含まれている話というのもそれはそれですばらしいし、作りこもうとすれば難しいと思いますが、「普通の話」で、純粋にテキストと展開だけで印象的な物語を作ろうとすれば、これも同じくらい難しいということだって絶対にあるでしょう。
この作品、話の設定自体は突飛ですが、こんなことってもしかしたらあるのかもしれないなとか、あるいは、こんなことがあればいいなとか、そういうところにすごくぴったりきます。テキストのテンポが絶妙で、本当に日常の何気ない部分と非日常のリンクがすごく巧いので、そのへんにまったく軋みが生じていないんですね。
だから、読み手側はそれをすごく自然にその物語や設定を受け止めることができるんではないかと思います。
あくまでもわざとらしくなく、自然と物語の世界に入っていかせるあたりはもうただただ絶妙。
今まででもねこねこソフトの作品って基本的にすごく好きなんですが、今までの作品でちょっとアレだなあと思っていたのは、どうも導入部分がすごくだらだらしていて、そこで嫌になっちゃうことが凄く多かったんですよ。『銀色』あたりは比較的そうでもなかったんですが、『朱』とか『ラムネ』とかその極致。
もちろん、最初のうちに平和な部分を書いておいて徐々に物語の中に、っていうのは理解できるんですけれども、それだって長すぎればちょっとどうかなあということになります。
つまり、こういう話を書くなら、最初のところからある程度読み手を揺さぶっていく必要って絶対あると思うんですよね。
本当になんでもない話の中に、次に繋がりそうなとっかかりを残しておく感じとでも云いますか、引っかかりがまったくない部分が物語冒頭に大量にある状態だと、やはりどうしてもその時点で飽きが来てしまいます。
否、これは別にねこねこソフトのシナリオだけの問題ではなくて、「大作」を目指して作られた多くの作品が陥る罠だと云えるかもしれません。
ある程度話が進めば面白いのかもしれない。でも、そこまで行く前に飽きてしまってやらなくなる。
こういう循環に陥ることって結構あるんじゃないかなと思うのですよ。
私自身経験ありますし、そういう理由で途中で放置してしまった作品もいっぱいあります。
で、この『サナララ』の魅力は、そのあたりが根本的に解決されているところからなんじゃないかと思うのです。
この云い方だとちょっと語弊があるので云いかえれば、少なくともこの作品ではそういう展開のヤマの巧さというのが凄く絶妙に配置されている印象をわたしは受けました。
展開の起伏を後半に集中させるのではなく、冒頭の部分から均等に割り振っていき、物語へ一気に引き込んでいく物語の方法論ですね。
これがすごくリスキーなことは容易に想像できます。本来の物語論では、ヤマの部分は後半に置き、一気に盛り上げていくという手法が当たり前なわけで、それはなぜかと云えば、物語展開の面でそうしておかないと、話の中に不整合が起きるからに他なりません。
読者が知っていることと主人公が知っていることの違いで、意識の乖離が起こってしまうわけです。
これが先で何度か云った「先が読めてしまう」ということですね。
ここでこうなるんだろうな、ということを、主人公は知らないのにプレイヤーが知っているという状況は、少なくともプレイヤーと主人公がイコールであるシチュエーションにおいては非常にまずいということになります。
ですが、この『サナララ』では、主人公の視点をプレイヤーの視点にせず、プレイヤーには劇場型の大きな視点を持たせ、さらにオムニバスの独立した話にしていくことでそれを解決しました。
その上で、同じ手法を用いていた『銀色』や『朱』に比べて全体的に物語を小さくコンパクトにまとめていくことで、結果としてより圧縮された密度の高い物語へ昇華しているのではないかと思うのです。
ちょっと話は横にそれますが、これは『水夏』でもそうだったのですけれども、このオムニバスという話の形態は、そういう点ですごく優れています。なのですが、それが故に統一を取るのが難しく、完成させるには技術を要求されるのだと思うのです。
一つの物語の構成要素としてそれを考えるのであれば、ただ複数の話がバラバラにあるのではなくて、どんな小さなことでも、その世界がそれぞれ繋がっていることを読み手に意識させなければなりません。そうでなければ、ただちぐはぐな別々の話を読まされて終わりになります。
そこに世界の繋がりを持たせることは、つまり物語の世界をひとつ紡ぎだすことに他ならず、『水夏』や『銀色』は、それが故に名作になりえたのだと思うのです。
この『サナララ』、そういう世界の繋がりをしっかり持たせているのはもちろんなんですが、話として4つの話がそれぞれひとつの大きな話の構成要素としてそこにあり、まとまったところで物語のヤマの位置がちゃんと存在しているということに驚かされます。
ちょっと判りにくいですが、つまり、確かにオムニバスでばらばらの話があるんだけど、結果としてその4つ物語は、ちゃんと『サナララ』という作品の構成要素になっているんです。
もちろん直接的に話が繋がっているわけではありません。
そういうことではなく、世界の一体感というか、ちゃんと4つの世界が地続きになっていて、同じ時間軸の上でいろいろな、それでいてなんでもないことが起きているというそういう感覚ですね。結果として、これがすごくいい演出になっています。
もうちょっと具体的に章ごとに見ていくと、どれも好きなんですが、個人的に一番好きなのはStory1かな、と。
Story1は、この作品のパッケージに書いてある「誰にでも起こるかも知れない、すこし不思議な物語り」が一番よく出てる話だったと思うのです。ネタバレになるのであんまり詳しくは語りませんが、最後の演出のあたりがすばらしいなと。
この作品はどの章もそうなんですが、話を終わらせるポイントがすごく巧くて。全部を語るのでもなく、説明を不足させて考えオチにするでもなく、「これからどうなるかはわかるんだけど、具体的な展開は書かない」その絶妙なポイントできっちり止めています。
このへんはもう驚くしかないんですが、その中でもこのStory1のポイントはほんとに絶妙なんですよ。ああ、これからこの話が始まるんだな、という感覚を持たせてくれる感じ。
これが最初に来ているのはそれなりの意味があってのことなのでしょう。キャラクタ的にも、この希未ってキャラクタはいわゆるエロゲーとかではすごくステレオタイプなおどおどびくびくタイプなんですが、それでもそれがなんだかすごく魅力的です。
そしてもう一つ、特筆すべきはStory3。
泣かせる、という意味合いにおいて涼の設定がやや反則気味ではありますが、いろんな意味でちょっと他の三つの話と若干趣や展開が異なります。
これはもうやってみていただくしかないと思うんですが、この決定的な最後のオチも、ゲームの序盤から中盤にかけてで恐らくプレイヤーの多くはなんとなく判ってしまうんですよ。
でもって、結果としてどうなるのかということもこれまたなんとなくわかるんです。
わかるんですが、それでもこの展開と文章力だけで物語に引き込み、最後に何度かぐっとこさせる物語の完成度ですね。ここが凄いと思うのです。
いやまあ、わりとすべての章でぐっときてるんでこのへんはもうほんとに高いレベルでの話なんですが。絶対に云っておかなければならないのは、残りのStory2とStory4がダメってことではぜんぜんありません。
Story2は若干地味ですが、そういう意味合いからの綺麗にまとまった普通にありそうな話という視点からすれば非常に完成度は高いですし、Story4に至ってはさすがにメイン部分だけあって、最後部分の綺麗な展開は目を見張るものがあります。
Story4はキャラクタの書き方や立ち位置がすごく絶妙なのもポイントですね。
わたし自身、こういう「普通の話」が凄く好きだ、という個人的な趣味はすごく作用していると思います。
ですが、それを自分で理解した上でも、少なくとも今までのねこねこソフトブランドの作品では、個人的にもっともお気に入りの作品になったのかなと思っております。
<CG>
いつものねこねこソフトの人とは違う人ではあるんですが、結論から云ってしまえばこれ、すごくいいです。なんかもう、立ち絵も一枚絵も全体的に大好き。文章のボリュームの割にはCGの枚数は多く、もっとも多い希未では差分なしで20枚、少ないあゆみでも9枚あります。これが多いと思うか少ないと思うかは人それぞれでしょう。
決して技術的に巧いというわけではないと思うんですが、なんかこう、表情のパターンが凄く好きなんですよ。なんと云うか、印象に残る、と云いますか。絵って結局感性で好き嫌いが決まるものではあるので趣味の問題ではあるんだと思うんですが、そういう個人的なところから云わせていただけばもう4人ともそのへんで個人的には魅力的でした。特にStory4の由梨子ですね。
彼女の一枚絵表情パターンがどれもツボに入っちゃいまして。CGモードとか、他の作品だと普段あんまり見直すことないんですが、プレイ終わった後にもう一回見直したりなんかしてしまいました。こんなに判りやすくキャラクタの表情が出てる一枚絵って、今まで見てきた多くのゲームの中でもあんまりなかったんじゃないかなと思います。
複数人で描いてらっしゃるらしく、そうするとこの子はいいけどこの子はちょっとなあみたいなことになってしまいがちなんですが、この作品に関してはそれはまったくありませんでした。
あとはあれですね、メッセージ欄の上に出るアレンジ顔。これがいい感じの演出になってます。よくねこねこソフトHPで漫画を描いてらっしゃる方の絵だと思うんですが、立ち絵とは別にこちらでちゃんと表情がくるくる変わりますので、このあたりでも終わってみるとなんかすごく表情豊かだった印象が残るんじゃないかと思いますね。すばらしい。
<システム>
若干重いかなという印象はあるものの、大きなバグはありません。出来合いのシステムだから当然と云えば当然なんですが。パッチ済だからなのかもしれませんけどね。ただ、別にこの作品に限ったことじゃないですけど、「パッチを当てるとセーブデータが使えなくなります」って仕様はどうにかならないものか。
それだけならそれで終わりなんですが、この作品で特徴的なのは、同じ章の中にも小さくチャプターが分かれていて、そのチャプターごとに読み直すことができるということでしょうか。お気に入りのシーンを再生したり、途中からやり直したりも簡単に出来ます。そのおかげであんまりセーブポイントを使わないかもくらいの勢い。これ、想像以上に便利なシステムです。
<音楽>
いいです、これ。ものすごくいい。なんか今回こればっかり云ってますが、作品中のどこかで聞いたことのある言葉を借りれば、好きな物は好きなんだからしょうがないじゃないですかっ、てなもんです。
まず劇中曲も、「浮き足」とかいい曲だったりするんですけども、やはりここで印象に残るのは、要所要所でかかる唄入りの曲「春風」。
これが、その使い方もあるんですがすごくいいんですよ。もうなんと云うか、シナリオとこの曲に泣かされたと云っても過言ではありません。
静かな曲なんですが、これの特にサビ部分の歌詞の綺麗なこと綺麗なこと。思わず口ずさんでしまう魅力があります。
こういうあれだと、ソフトにちゃんとサントラが入ってるのって嬉しいですね。しかも初回限定版とかそういうのがないんで、買えばいつでもサントラがついてるわけで、これは嬉しい。ヒットしたら後からサントラだけ買わせようみたいな商売はもう結構ですってなもんです。
あとはあれですね、声。声がまた見事。4人ともまったく違和感ありません。ただ「キャラに合ってる」だけじゃなくて基本的にみんな巧いんですが、特にStory1の希未、Story4の由梨子あたりは絶妙です。
希未はなによりもあの難しい台詞回しを嫌味なくやっていることがまず大きなポイントでしょう。ああいうおどおどキャラってちょっと間違うとものすごくうっとおしいことになってしまうんですが、そのへんがまったくありません。こなれてる感じがして、すっとキャラに入っていける魅力があります。
そして百梨子。これはもうなんか、演技のあまりの自然さにただ驚かされるばかり。台本にはおそらく指定が無いであろう「間」を絶妙に置いて物語に色を添えるその感覚は、もうなんと云いますかプロの力を見せ付けられた感じさえします。
こればっかりはなかなか聞いてもらわないとどうしても伝わりづらいんですが。
<総合>
5800円という、アダルトゲームとしては比較的安価な値段(しかもサントラ付きで)と云い、それまでと比べて全体的に少な目の(と云っても分量は凄く適当だと思いますが)ボリュームといい、この作品はおそらくどちらかと云えば小粒なところを狙って作られたのかな、という気はします。
決してボリューム不足というわけではなく、あくまでもいままでのねこねこソフトブランドと比較して、という話ではあるんですが、確かに小粒は小粒、大作にはなりえませんし、制作側もたぶん大作を狙っているわけではないんじゃないかなとは思います。
でも、それが故にこの濃密な完成度ができたんじゃないかとも思うんですよ。
そういうボリュームのこともありますし、そしてまた、スタッフ陣を見ても、この作品って一種、ねこねこソフト自身が過去のねこねこソフトをいったん切り離し、別の方向へ一歩踏み出した作品なんじゃないかと思うんです。
ここでこれを送り出せるのって、ある意味で凄いなという気はします。
繰り返しになりますがこの作品、過去の因果関係まで含めた大きな話とか、そういう話のギミックとか、そういうのに期待する人にはちょっときついでしょう。
それは仕方がありません。そういう人には合わない、というそれだけの話です。
ですが、そうではなくて、本当に普通の生活の中に本当に小さな非日常があって、その非日常は決して大きくならずに、だけどそれまでとは本当にわずかな違いのある日常へ戻る、それこそパッケージにある「すこし不思議な物語」タイプが好きな方なら、これは絶対に満足できると思います。
たぶん、アダルトゲームとかに興味があるならばという前提付きではありますが、女の子とかがやっても普通に楽しめるんじゃないかな、と。
そういう向きには安心してオススメできる一作ですし、そして、あまたあるそういう作品の中で、この『サナララ』の完成度は間違いなくトップクラスだとわたしは思うのです。
2005/05/01
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