PIGEON BLOOD(アボガドパワーズ)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4+
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:


<シナリオ>
 調教ゲームというのは結構シナリオが重要な役割を占めていて、たとえばPILの『女郎蜘蛛』なんていうタイトルは、あのしっかりした話があってこそなんぼのもんであったりするわけですが、これはそうでないとただ後から先まで女の子をいたぶって終わるだけのものになってしまうからでありましょう。
 無論、それで十分という考え方もあってしかるべきですが、やっぱりそればっかりだとねえ、というのは若干ないわけではありません。
 そこへきて、この作品『PIGEON BLOOD』です。
 シナリオの展開事態はこれといって目新しいものもありません。こういうところに来るのだろうなあという狙ったところへちゃんと来ますので、あっと驚くようなどんでん返しなどは一切ありません。
 そういう意味で云えばなんだ別にたいしたことないじゃんで終わってしまうんですが、この作品のシナリオが巧いのは、とにかくその雰囲気作りです。
 調教ゲームというのはどこにでもある世界を舞台にした恋愛シミュレーションとは異なり、一種、特殊な世界がベースです。
 そりゃそうでしょう。普通に生活していて、女の子を拉致監禁して調教するなんてことはまずありません。
 こういった特殊な世界観に説得力をもたせる必要があるという意味で、調教ゲームのシナリオというのは重要な意味があるわけです。だからこそ、その舞台は今のわたしたちがいる現実と大きく乖離した空間であることが多いわけですね。
 先に名前を出した『女郎蜘蛛』は大正時代の雰囲気を見事に演出していて、それだからこそ現実離れしたあのシチュエーションが説得力を持ちましたが、この『PIGEON BLOOD』の場合はこれが外国です。
 漂う雰囲気からして、おそらくイギリスあたりでしょうか。いわゆる「剣と魔法」よりはかなり新しく、現代というにはちょっと古い感じがしますがよくわかりません(これも別に説明があるわけではありませんのであくまでも推測ですが)。
 キャラクターの持つ雰囲気や話し方など、その要因はさまざまですが、この雰囲気をきっちりと作り出している構成はなかなかに見事と云うほかはありません。
 文章のテンポもいいので、合間に入るストーリー部分を読むのにはまったく苦痛はありませんでしょう。キャラクターの書き込みが凄いので、物語自体が「立って」おり、そのへんもしっかりとしたアクセントを作っています。
 んで、調教部分なんですが、これはもうとにかく濃い濃い。展開事態は鞭でぴしぴしとかそういう類のあれなのですが、テキストのまわりが非常に描写がねちっこく、こういうのが好きな人なら間違いなく満足な感じです。
 とくにこの調教の場では、調教の手助けをする「女王様」ことカオルコの存在が大きく、主人公・クリスと調教されるキャラクター・リタだけではこうはなるまいと云った展開にまで発展します。
 リタがクリスを受け入れた後は、調教を受ける際に怯える表情を見せることがなくなってしまって「被虐心を煽る」という要素がどうしても欠落してしまいますが、カオルコを恐れるリタという設定があるおかげで、リタがあくまでも調教を受ける奴隷であるという説明が感覚的なものとして残ります。
 カオルコとクリスのセクレタリーであるヴァネッサ、そして調教を受けるキャラクターであるリタという存在のバランスが、メインシナリオ部分においてはもちろん調教部分においてもきっちり生きているわけです。
 なかなかもうなんか見るのも痛々しいような調教もあったりしますが、その痛々しさがテキストを通して伝わってくるというのは、やっぱりその絶妙な雰囲気作りのなせる技なような気がします。
 このへんが甘い「調教ゲーム」は、なんだかちっとも痛みとかが伝わってこず、ただなんかエッチの延長で終わってしまうものも多々ありますしね。
 それだからこそ、そういう系列のエッチが苦手な人にはあまりオススメはできないんですけども、他の調教系ゲームがそうであるように、基本的にそういう人はこのタイトルを手に取ることはありませんでしょうから別に問題はありませんでしょう。

<CG>
 これはどうでしょう、流行の系列から外れているという意味ではかなり好き嫌いに依存すると思います。
 尤も、どちらかというとちょっと劇画に若干近い部分があってエロゲーとしては見慣れていないという意味にすぎないので、ゲームをやっていれば違和感はすぐに消えるでしょうけどもね。
 リタはどちらかというと順当なロリ系なんですが、ヴァネッサは巨乳なのはともかく男性器まで付いていたりしますし、カオルコに至ってはもう顔が怖いです純粋に。彼女の怒った顔は、声と合わせて真剣に迫力があります。
 当然のことながら、エロ絵も枚数は多いです。
 それぞれの調教パターンにエロ絵が一枚から二枚程度用意されているだけなのですが、調教のパターンが多いのでそれはもうほんとに多種多様。いわゆる「普通の」エッチシーンもあることはありますが、そのほとんどは叩いたり縛ったりといった系列のものです。 もともとの絵柄の濃さに加えて絵の内容も濃いのですね。
 はっきり云って、テキストと併せてかなり痛々しいです。まあこれも、そういうのが好きな人なら納得のいく出来でしょう。

<システム>
 素晴らしいです。調教のシステムとしてはかなり完成されています。
 まずほとんどを占める調教部分では、単純に調教レベルの高さがパラメーターの上昇率と一致しているわけではないため、高いレベルの調教ばかりしていれば簡単にクリアできるといった類の繰り返し作業になりにくい(なる場合もある)というのが挙げられましょう。
 もともとの調教内容が「奉仕」や「責苦」などといったジャンル別4つに分かれており、さらにその中でそのときにリタに着せている衣装3種類によってできる調教とできない調教が出てくるため、必然的にバランスよく数字を上げるにはいろいろな調教をしていかねばならないという戦略性が生まれてきます。
 後に説明する「品評会」のことを考えるとひとつの調教ジャンルに偏ったほうがいいのですが、これをやるとパラメーターに偏りが出るため、結果として苦労することになってしまいますから、そことの兼ね合いを考えたバランスを見つける作業になってくるわけです。
 で、一ヶ月に一度の「品評会」はカードゲームです。
 まず「調教ジャンル」を選択、その中で過去の調教でやったことのある「調教カード」が手札に入ります。このカードをリアルタイムで次々と場に出していき、カードを出すことで得られる「ポイント」を規定の数値まで早く上げれば勝ち。
 調教レベルが高いほど得られるポイントは大きくなり、また、複数の異なった種類のカードを出すことで「コンボ」が完成、ポイントを大きく上げることができたりといった仕掛けがあります。
 このへんの説明はなかなか難しいので実際にやっていただくしかないんですが、やってみればすぐにコツというかルールは理解できると思います。見た目ほどフクザツではありません。
 が、それなりに奥は深いです。
 カードを出すことで体力が減り、体力がゼロになると一定の値に回復するまではカードを出すことができません。
 もちろん、リアルタイムですからカードを出さないでいるとポイントはガンガン減っていきます。その間に敵はどんどんポンとを上げているのでどんどんまずいことになっていきます。やたらと出せばいいというものでもないわけですね。
 ここにもまた、ゲームとしての戦略性があります。これはかなり面白いです。云ってしまえば、この調教パートとカードゲームだけでも十分に遊べます。
 クリア時に持っていたアイテムを次のプレイに持ち越せたりと、これはもうほんとに細かい点においても親切で満足度は高いです。

 <音楽>
 音楽のほうは正直あまり印象には残ってませんが、声は凄いです。
 なにが凄いって、とにかく迫力満点。みんな巧いのはもういまさら言うまでもない感じですけど、それがゆえにキャラクターとして怖いカオルコが大迫力です。
 調教中にリタをしかりつけることが何度もあるんですが、この怒ってる声がほんとに恐怖以外のなにものでもありません。
 正直、リタとかヴァネッサの声はあまり印象には残っていませんが、カオルコの声は残ります。インパクト抜群で、それがゆえに調教中の臨場感も非常に高いものになっています。

<総合>
 とにかく、エロゲーというジャンルではなかなかなくなってしまった、ゲームとして楽しめる一作です。
 調教パートは非常に優れたバランスを保っていますし、その結果である品評会は、調教パートの結果がコンスタントに出る上に、単純明快ながら戦略性のあるゲームシステムのおかげでついついやりこんでしまう深さがあります。
 もちろん、内容が内容ですし、何より本気で痛そうだったり可哀想だったりするのでなかなか誰にでもオススメというわけにはいきませんが、単純に絵とジャンルで敬遠するのはちょっと勿体無いかな、という感じですね。
 この手の作品が許容できるなら、この完成度の高さには満足の逸品ではないでしょうか。


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