置き場がない!(AKABEiSOFT2)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4−8−
シナリオ:健速
原画:有葉/ikki
音声:フル
主題歌:有(オープニング:『獣になれ!』/エンディング:『一番星と君と』/挿入歌:『ヤルセナイザー音頭』)

<シナリオ>
 突然裏山に落っこちてきた謎のロボット。「ヤルセナイザー」と名付けられたそのロボットをめぐり、ある者は研究材料に、またある者は町おこしにと、さまざまな思惑が動き出す……といったような感じのストーリー展開になります。
 という概要でおわかりいただけます通り、いわゆる「ロボットもの」で想起されるような、ハードに敵と戦って世界の平和を守るとか、そういう話が主ではありません。中にはそういうストーリーになるシナリオもありますが、それはあくまでも従です。
 基本的には、まさに『置き場がない!』というタイトルが示す通り、「もしもいきなり巨大ロボットが町に現れたらどんなことが起こるか」という視点から見た話だったり、「巨大ロボットをこう云う風に使いたい」という使い道は非常に呑気な感じで、話自体も基本的にはコメディとして進んでいきます。
 なので、いわゆるステレオタイプな「ロボットもの」を期待してプレイするとちょっとがっかりするかもしれませんが、逆にロボットものだからといって極度に敬遠する必要もありません。
 この作品においてのヤルセナイザーの立ち位置というのは、普通の恋愛モノの、ガジェット兼ちょっと目立つけど重要なポジションにいる友達キャラクタとしての扱いみたいなものです。
 ヤルセナイザーのデザインが、今時のロボットものアニメなどと比較しても比較的ノスタルジックな、微妙に古臭く野暮ったいデザインなのも、そのあたりを考慮してのことだったのでしょう。
 なので、この作品については、そのシチュエーションを楽しめるかどうかというのが非常に大きなキーポイントになってくるわけですが、そのへんはさすがに制作サイドも気を使ったのか、丁寧に作りこまれているのが実感できます。
 主人公キャラクタが非常に穏やかな性格の、云うなれば人畜無害な性格なのはいわゆるアダルトゲーム主人公の定番ではありますが、この作品ではこのヤルセナイザーというロボットが、騒動の中心にいながら且つアクの強いキャラクタとしても同時に描かれているため、結果としてこの空っぽの入れ物のような主人公が非常にうまく立ち回っています。
 また、それと同時に、主人公を除くほかのキャラクタがみんな非常に強い個性を持っているので、この主人公を中心にした展開の中でその他のキャラクタもまた上手く活かされています。
 このへんの、ヤルセナイザーを含めたキャラクタの描き方がものすごく巧みなので、冒頭部分から最後に至るまで、結構なボリュームはあるもののするするっと読めてしまいます。主人公の設定や行動に無理がない、嫌味さがないのでそのあたりは余計にですね。
 ストーリー展開も基本的にそういったキャラクタたちのドタバタで描かれるわけですが、基本的にコメディ一本線なところから徐々に真面目になっていって、その中にふとコメディ要素が顔を出すような組み立て方になっているので、エピソードレベルで取り出してみると結構な大事件が起きているにも関わらず、最後まで進めてみると、意外と展開にブレがないように感じると思います。
 結局のところ、この作品における物語の組み立て方や文章などの形態は、端的に云えば「ライトノベル的」なのだと思います。
 最近では割と、アダルトゲームの中でもこういった形態のストーリー展開や文章をよく見るようになりましたが、それが成功している……つまり、ライトノベルの「いいところ」を取れている例というのはさほど多くありません。
 これは結局、その多くが表層的な上澄みをさらって、つまるところ「ライトノベルのテーストを入れ込んだ」ような味付けをしているだけにとどまっているからなのだと思います。
 ものすごく大雑把に云えば、ライトノベルのいいところというのは「とっつきやすさ」にあり、逆にウイークポイントは、その文体や展開の都合上どうしても「内容を深くまで語り辛い」ところにあるのだと思いますが(このあたりは掘り下げていくとライトノベル論になってしまうので、この場では省きます)、結局上澄みだけを掬い取ると、「なんとなく読み進めたけど、結局なんにも残らなかったなあ」という作品になってしまいます。
 そして、現実問題として、そういったアダルトゲームが少なくないというのは厳然たる事実でしょう。
 本来、どちらもキャラクタを掘り下げていって物語を構築するという意味において、ライトノベルとアダルトゲーム・美少女ゲームは非常に相性がいいはずです。
 ところがここが難しいのは、「ライトノベルは小説であり、アダルトゲームはゲームである」というある意味で当然の話へ帰結していきます。同じような展開を見せるにしても、見せ方がまったく異なってくるのですね。
 表層的なところだけで云えば、すべてを文字で説明しなければならない小説では、いわゆる「地の文」と呼ばれる状況説明などを、行間を読めるところまで丁寧に組み立てる必要が出てきます。
 たとえば、このキャラクタは喜んでいるのだ、というのを読者に説明するには、直接「喜んでいる」という説明をするか、喜んでいるということが行間でわかる程度まで本文を組み立てていかなければなりません。
 反面、ゲームではその前に画面があり、立ち絵の表情や一枚絵などで大まかなシチュエーションが説明できますから、このキャラクタが喜んでいるという表現をしたければ、立ち絵の表情を変えてしまえば、具体的な説明も行間での説明も必要はありません。
 ゲームの文章をそのままベタで起こしても小説にならないのはそのためです。根本的に文章の組み立て方が違うわけです。
 そんな状況で、ライトノベルの「テースト」だけをいくらぶちこんで煮しめたところで、上に書いたような「なんとなく読めたけどなんにも残らない」作品になってしまうのは、これはもう当然と云えば当然の話です。
 もちろんさまざまな方向性において「内容が深い」ライトノベルはいくらでもあります。ライトノベルはあくまでも、深い内容が「語れない」のではなく「語り辛い」のですから、当然のことながらそれをクリアしている作品があるのは当然の話です。
 ……余談ですが、当然「ライトノベル的」でないゲームもたくさんあります。一見するととっつきにくく、ゲーム冒頭は非常に読み疲れるのですが、反面それを進めていくと内容の深みにドハマリするというパターンです。
 キャラクタよりもストーリーに比重が置かれた作品に多いパターンですね。
 もちろんこちらにだって、冒頭が非常に読み疲れて、特にこれといった深みもなく終わり、結局気疲れしただけだったなあ、という作品もまたたくさんあります。どちらかといえば、気付かれするぶんだけこちらのほうがデメリットは大きいのかもしれません。
 また、それがゆえに、こちらのほうが同じ「つまらなかった作品」として比較したときに評価が低くなりがちです。が、結果として表現形態やテーストが異なっているだけで、どちらもあまり本質的には大差ないのです。
 とまあ、ちょっと話はそれましたが、というようなことを踏まえたうえでこの作品の物語を見てみると、そういう「とっつきやすさ」と「物語の深み」がほぼ両立しているところにあります。
 と、ここで「深み」というのがまた誤解されやすい言葉なのですが、これはなにも感動して泣いたとか、それだけをさすのではありません。キャラクタの描かれ方が印象的だったという、それだけでも十分に「深い」のです。
 だからこそ、読んでいてもストレスを感じない程度に読みやすく、それでいて個性的なキャラクタが上手く動き回ることで、この作品の世界は作り上げられているのだと思います。
 世の中には「ライトノベル的」というのを軽く見る風潮もあるのですが、決してそうではありません。極論すれば、文学と漫画を比べたときに漫画のほうが低く見られる傾向があるものの、実際はどちらも優れた表現手段であり、且つどちらも独特の技術が必要になるのと同じことです。
 とっつきやすく、深いところまで読みやすいという点において、この作品は非常に面白いのではないかなと思います。
 ディテールの点では、作品自体は大きく5話に分かれており、2話までが共通ルート、それ以降がそれぞれのキャラクタシナリオとして分離していきます。途中、その中でも色々な事件やイベントは起きているのですが、上にも書いたようにその導入や繋ぎの部分が不自然でないため、「物語が突然展開した」ような違和感はあまり感じないと思います(キャラクタによっては若干感じるシナリオもあります)。
 とかく、シナリオ展開は面白いですし、なによりキャラクタの描きこまれ方が特徴的で嫌みもなく面白いので、読み進めていく段階で割と楽しめる作品なのではないかと思います。

<CG>
 丁寧で綺麗な色遣いもあり、見ていて気持ちのいい絵です。キャラクタもそれぞれに嫌味もありません。
 アダルトシーン含めて絵のバリエーションも豊富です。サブキャラみたいな人にもちゃんと絵柄が用意されているので(それは立ち絵だったり一枚絵だったりさまざまですが)、過不足はまったく感じないと思います。
 キャラクタデザインで云えば、女性キャラはもちろんですが、上にも少し書いたとおりヤルセナイザーのデザインが秀逸です。決して今風の鋭い感じのデザインではなく、むしろどちらかというと野暮ったい感じのデザインなのですが、これはおそらく「狙ってそうしている」のでしょう。あくまでも「戦ったりしない、のんびりしたお話」の演出なのだと思います。
 実際、それは非常にうまく作用しており、ロボットなのにもかかわらず、人間のように感情付けや表情付けがなされています。
 それはもちろんキャラクタデザインに助けられているところもあり、また同時にメッセージウインドウ横に表示される表情が豊かであることも理由ではあるとは思いますが、なんにせよくるくると表情が動くので、見ていても退屈はしません。
 また、細かいところですが、そこここで小技の効いた演出がなされており、それがまた見ていて楽しくなる理由のひとつでしょう。
 たとえば冒頭、ヤルセナイザーを「拾って」家に帰った主人公を母親が怒るシーンでは、具体的に母親が怒る一枚絵や立ち絵を使うのではなく、「捨ててきなさい!」の声とともに主人公の家が(アニメ的に)跳ねる、といった演出が使われています。
 こういった小技があちこちにあって、これもまたおもしろい点ですね。

<システム>
 特に過不足のないアドベンチャーシステムです。これといったバグも見当たらなかったかわりに、目立ってなにかができるというわけではありません。ただ、上にも書いたとおり、演出に関してはかなり凝ったものが使われています。
 ただ、個人的には、セーブがちょっとやり辛いです。セーブは右下のボタンで行うのですが、これが小さくて合わせづらいのですね。
 ただし、ディフォルトでは設定画面を開くようになっている右クリックですが、これを設定画面の「ショートカット」でセーブやその他さまざまな設定に充てることができますし、そのショートカットでキーボードの任意のキーを設定しておけば、キーボードからセーブ画面を開くこともできます。
 これを設定しておくとだいぶ使いやすくなるかな、といった感じでしょうか。
 ただ、トータルでは不満があるようなシステムではありません。

<音楽>
 劇中で流れる曲も割といい感じの曲が多いのですが、やはりその中でも、オープニング『獣になれ!』とエンディングの『一番星と君と』が好きです。
 オープニングはテンションの高い、いかにもロボットアニメ調の曲なのですが、反対にエンディングはしっとりとした「聞かせ系」の曲になっています。
 まったく別の系統の曲ではあるものの、それぞれに頭に残る曲だったりします。
 音声はフルボイス。主人公以外の男性キャラクタはもちろんのこと、サブキャラクタまできっちり声が入っています。このあたりも違和感なく聴けるのではないかと思います。

<総合>
 総合としては面白い作品ではあるものの、やはり、ヤルセナイザーをガジェットとして扱った場合にこの作品をフラットに見ることができるかどうか、という点がもっとも大きな点だと思います。
 残念ながら、アダルトゲームの多くのユーザにとって、これがなかなか大きな敷居になっているのは間違いないと思います。簡単に云えば、「ロボットものはちょっと……」という思いですね。
 正直、わたしもあまりこの手のロボットものというジャンルに対しての思い入れはまったくありません。この手のアニメなどもほとんど見ないで育ってきましたし(かの『ガンダム』ですら一度も見たことがありません)、ゲームなどもやりませんでしたから、やる前はそういう印象があったのは事実です。
 だから、ここで「ロボットものという視点で見た場合には」という話はしませんし、そもそもすることができません。
 ですが、実際に始めてみると、ロボットがどうしたこうしたということは二の次で、実際のところはあまりそれを意識せずに読み進めることができます。
 そういう意味では、「ファーストインプレッションで抵抗があるけど興味がある」という人なら、触れてみて損はない作品でしょう。
 ただまあ、どうでもいいことですが、初回版の箱はやはり大きすぎると思います。フィギュア入りなので仕方ないといえば仕方がないのですが。

2010/10/23

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