夏少女(PULLTOP)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3−4+6+
シナリオ:SHARED
原画:藤原々々
音声:有
主題歌:有(オープニング:『真夏のかけら』/エンディング:『とおりすぎゆく人へ』)

-雰囲気作りの不足が惜しすぎる一作-

<シナリオ>
 こんな言葉があるのかどうかは定かではないですが「田舎ゲー」というジャンルがありまして、つまるところ田舎を舞台にしたゲームのことなんですが、この手の作品で一番大切になるのはおそらく雰囲気作りなんじゃないかと思います。つまり、田舎の素朴で静かな佇まいをどれだけプレイヤーに伝えることができるか、ですね。たとえばサーカスの『水夏』や、TOPCATの『果てしなく青い、この空の下で…』なんていう作品は、それをうまく出し切ったからこそストーリーそのものも輝いてるんじゃないかなと思うのです。ああいういわゆるステレオタイプの田舎というか、我々が無意識の中で思っている故郷像みたいなものを作品を通して仮想現実のフィルタに投影する場合、その景色の描き方を失敗してしまえば、ストーリーの根底自体が揺らいでしまうことになります。
 さて、『夏少女』です。
 結論から先に云ってしまうと、その点から見るとこの作品、若干練りこみ不足かなあという印象は受けてしまいました。というよりも、全般的に展開が早すぎて、ちょっとボリューム不足を感じさせる結果になってしまっています。
 と、ここで意図的に話を少し脱線させます。
 ストーリーとしては天文学部の主人公が、友人の生まれ故郷である田舎町「上郷町」を星を見るために訪れ、その際に会った女の子たちと親睦を深めていき、やがて……というものになっています。ゲーム期間は一応三年ということになっているのですが、夏休みだけの話……つまり、一回目の夏休みが終わると次の年の夏に一気に飛ぶので、それほど特別に長い、というわけではありません。ただ、前述した「ボリューム不足」というのはそこに依存するのではないです。もうちょっと根本的なところで、たとえば女の子が主人公のことを好きになるにしても、それがあまりに唐突過ぎるのですね。一週間程度をいっしょに過ごしただけで、女の子がなんだかとんでもない勢いで恋を意識してしまっているという感じで。もちろんこれが、恋なのかそうでないのかわからない複雑な感情、というのならばまだわかるのですが。
 さらに、展開がとにかくご都合主義なのもちょっと気になりました。女の子に会う瞬間だけ雨が降っていきなりからりと晴れてみたり、女の子と会うときはなぜかいっしょにいた友達が用事でいなくなってみたり。まあこの手のゲームなんてそんなもんだろうと云われれば確かにそうなのですが、それを読み手に感じさせてしまうと、これは致命的な世界観の破壊に繋がってしまいます。
 で、これが残念ながら一番最初の「雰囲気」の話にも関わってきてしまうのです。
 そういうなんというか微妙な田舎の雰囲気というものを感覚として伝えるというのは、仮にそうしようと思ったとしてもなかなかにうまくいくものではありません。なのですが、どういう表現であっても、それは基本的にはゆったりしたテンポにあるんじゃないかと思うのです。一日を長く感じさせるような表現があってこそだと思うのですが、この作品は先にも述べたように展開がとにかく早いので、それを感じる間というものがどうしても薄くなってしまいます。つまり、ベースにある雰囲気は決して悪いものではないのですが、早すぎる展開がそれを阻害してしまっているという印象を受けてしまいました。これはほんとに惜しいと思います。
 と、ここまで書くとなんだか悪いことばかりのようですが、もちろんそんなことはありません。まず文章自体は軽快で読みやすい文章ですし、なによりキャラクターの描写が非常に巧いです。女の子を可愛く見せる展開とでも云いましょうか、とにかくそういうものに関してはこだわって創られているのがよく解ります。それが特に顕著なのは京という女の子なんですが、他の二人に関してもそれはきわめて高いレベルで描写されていて、素直にああこの子可愛いなあと思えるというのは素晴らしいと思います。ストーリー自体も三年目の女の子独自ストーリー部分になってくると若干重たい話になってくるキャラクターもいますが、基本的には平和で実にほっとする話がメイン。まあそれだけに先が読めてしまうという話もあるかもしれませんが、それは決して悪いことではないとわたしは思っています。
 まあ、なんというか、いわゆる青春ドラマとして作られている感じなのかもしれません。田舎ゲーならではのゆったりとした時間を感じるというのはちょっと難しいかもしれませんが、田舎で女の子と過ごす楽しい生活というのは巧く表現されているんじゃないかと思います。
 あと、蛇足ながら。オールクリア後に出てくる三分程度で終わってしまうおまけシナリオとすら呼んでいいのかわからない短い話があるのですが、これが非常に素晴らしいです。これに関してはあまり細かいことは云いませんが、ぜひ見てみてください。

<CG>
 どちらかといえば全体的にぷにぷにっとした感じの、まあ身も蓋も無い云いかたをすればロリ系の絵ですが、これが実に作品とマッチしています。まあわたしの場合はこの絵に惹かれて買ったようなものなのであれですが、それ自体は想像以上でした。特に一枚絵に関しては非常に魅力的。もっとも、こういう絵柄なので苦手な人は苦手なのかもしれませんが、さしあたり雑誌なんかで掲載されている何枚かの絵が気に入ったら、買ってみても絶対に損はしないと思います。
 実は背景なんかもかなり細かくて綺麗に仕上げられていて、絵に関しては個人的には大満足。

<システム>
 これといったバグもなく、フラグも素直。セーブポイントも多いし、なによりフルインストールでディスクが要らなくなるという手軽さは非常に魅力的です(DVD版の話です。CD版はどうなのかわかりません)。できることもスキップの既読未読処理の選択など非常に豊富で、演出など含めて特に凝ったことはしていないけど必要にして十分です。ただ、よくわからないのがホイールマウスの対応。下に動かしてメッセージクリックと同じ効果があるのはともかくとして、上に動かしてもバックログが見られないというのは若干中途半端な気が。ただバックログモードでも音声が聞けたりするので不満はないです。

<音楽>
 オープニングとエンディングに歌がありますが、これはどちらも非常に綺麗な曲。『夏少女』というタイトルにふさわしく、オープニングは賑やかで楽しさを感じさせる曲、エンディングは田舎町の涼しさを感じさせるしんみりとした感じの曲になっていてかなり聴かせてくれます。反面、劇中曲に関しては印象薄。悪いっていうわけじゃないんですけどね。「星だけが光る夜空に」とか好きな曲なんですが、いかんせんそれが流れるシチュエーションが今ひとつ生かされていなかったかなと。
 あとは音声。これは全般的に非常に高レベルです。個人的には棲子さんはもうちょっと若い感じの声でもいいのではないかとか、雪江さんはいくらなんでもわざとらしすぎるんじゃないかとか思わないこともないんですが、ヒロイン三人についてはもうまったく文句なし。特に明希ですね。こういうキャラクターってともすればちょっと鼻につく感じになってしまって非常に難しいと思うんですが、実にイヤミなく、元気で可愛い明希というキャラクターが演じられています。
 まあ、贅沢を云うなら、友人である樹一郎にも声が欲しかったかなという気はしないでもないですが。

<総合>
 まあ、なんでしょう。過剰に期待しすぎるとちょっとがっかりくるところはないわけではないですが、純粋にそういう話を愉しむというのであればこれは間違いなく良作だと思います。もちろんただだらだらと長くすればいいってもんじゃないんで、このへんはもう純粋にバランスの問題でしょうね。基本的には退屈させないテキストとか非常にポイントは高いですし、なにより物語にしても絵にしても女の子が非常に魅力的なのは確かなので、次にも是非期待させてもらいたいなあという印象です。
 しかしあれだ。この女の子たちは最初に会ったときから逆算していくと、初えっちの時にもまだ中学生なのでは……。

2003/6/7

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