夢幻廻廊(Black Cyc)
項目 | シナリオ | 絵 | システム | 音楽 | 総合 |
ポイント | 4 | 3− | 3 | 3+ | 7 |
シナリオ:伊藤ヒロ/奈落ハジメ/土田太郎/千堂琉宇衣/らまんちゃ
原画:椎咲雛樹
音声:フル
主題歌:有)(オープニング:『トキのかたりべ』/エンディング:『夢幻廻廊』)
|
<シナリオ>
気が付けば謎の屋敷にいた主人公。記憶も身寄りもない彼は、屋敷の女主人に「ここに置いてくれ」と懇願する。それに女主人は、彼に「かとる」としてこの屋敷で暮らすことを許可した。しかしその「かとる」としての毎日は、主人公の想像をはるかに越える生活だった……。
いわゆる「館モノ」です。女主人、三人姉妹、メイドというある意味「王道」にある舞台設定と云ってもよいでしょう。当然と云うかなんと云うか、誰かと誰かが好きになって結果ほのぼのしたエッチが展開される、なんていうタイプではなく、サディズムやマゾヒズムに寄った展開が主になってきます。
ただし、特徴的なのは「主人公がそれら女の子に対してそういう行為に及ぶ」のではなく、「主人公がそれら女の子達にそういう目にあわせられる」という、平たく云えば「主人公受け」になっているということです。
「かとる」というのはおそらく「cattle」、つまり「家畜」のことでしょう。ということで、「かとる」になった主人公は、「たろ」という名前を与えられ、飼われている動物として(つまり、人間としての扱いを受けずに)暮らしていくことになります。
特に顔立ちが女顔であるがゆえに、基本的にメイド服とかで女装させられていることも多いのですが、これに主人公が最後まで抵抗感を覚えているあたりに、最近とみに増えてきた「女装モノ」の中でも異彩を放っている気がします。最近ブームなんでしょうか、「ショタモノ・可愛い男のが主人公の作品」ってものすごく増えてきましたけど、シチュエーションはかなり単一のものになってましたから、ある意味でこういうマゾヒズムに寄ったシチュエーションのものって貴重かもしれません。
テキストそのものは結構エロいです。と云っても、基本はそういう女の子たちに苛められる設定がほとんどで、普通のエッチ(という云い方もあれですが)はあまりありませんので、このへんをどう取るかというところではあるんでしょうけれども。あらゆる意味でフェティッシュな作品なだけに、このへんは仕方がないところでしょう。そのへんは納得してから買う必要は絶対にあると思いますが、逆にそういう嗜好が強い人なら満足できると思います。変にねちっこい云い回しが多い三文エロ小説みたいな感じになっていないあたりはなかなかのものです。
システム自体が結構特徴的なので一概に説明するのも難しくはあるのですが、同じシチュエーションでも「赤の日」「黒の日」という二種類があり、これによって内容が微妙に変わってきます。最初は「赤の日」を全部見せられ、次に「黒の日」を見るという状態になるのですが、これが実に上手いんですね。
この「微妙に」というのがミソで、「赤の日」はわりと内容がソフトなんですよ。で、「黒の日」はものすごくダークになるんですが、二つともシチュエーションは同じで、微妙な内容だけが異なっている感じになるわけです。だから、最初にほのぼのした(ばかりでもないんですが)した「赤の日」を見せられた後にこの「黒の日」を見せられるので、そのギャップが凄く来るものがあります。たぶんこれ狙ってやってるんだと思うんですが、効果としては絶大。「シチュエーションが同じ」であるということは、そのぶんバリエーションが少なくなってしまうわけなんですが、そういう手狭さを感じさせません。
と云ってもこれ、エロだけではありません。バックボーンの物語そのものも、比較的しっかりしています。
『夢幻廻廊』というタイトルが示す通り、基本は無限ループなのですが、これが実に不思議な世界観の演出になっているのですね。結局のところ、それがどうしてそうなったのかという物理的な説明については最後まで成されることはないのですが、しかしそれが逆にそういう微妙な世界観を作り出しています。
この世界観の作り方は素直に上手いと思います。考えてみれば、「館モノ」というのは一つの閉鎖空間の中における非日常性をクローズアップしたシナリオ展開になるのでその雰囲気作りはそれはそれで必要になってくると思うのですが、それは云うほど簡単なことではありません。単純にクローズされた館の中で得体の知れない事件を起こせばそれでいいというものでもないでしょう。
そこで、この「ループする」という設定がうまく絡んできます。結果としてこれが絶妙なホラー感を出していまして、なんだかやっててもずっと不安が抜けない感じですよね。とりわけここについて何かこった仕掛けがあるではないのですが、純粋にこれが演出になっている感じとでも云いますか、終わった後になんだか変に「残る」のです。
欠点があるとすれば、主人公の行動原理にちょっと一貫性がないところが見られるかなあ、というところでしょうか。ただこれも一概に悪いのではなくて、「記憶喪失で不安定な「かとる」の状態=半分「壊れた」状態の演出にもなっているので、これが逆にスパイスになっている感じもします。
ただそれだけに、唯一の「整合性」である麻耶のエピソードはちと蛇足かな。あくまでも個人的な感想なんですが、あれはなくてもよかったような気がします。
<CG>
若干背景の力が抜けているかなという気もしますが、別にそれで致命的にダメになっているわけでもなく。絵自体にちょっとクセがあって、とくに立ち絵はアクが強い気がするというか「ちょっと古い感じ」がするんですが、それもまたひとつの演出であると考えるとさほど違和感があるわけではありません。枚数も比較的多いですし、パッケージとかの絵を見て「いい」と思ったのであれば十分納得できるクオリティだと思います。
<システム>
普通のアドベンチャーなのですが、進行にちょっとクセがあります。ただこれ、一見すると複雑なんですが、実は非常に単純で、要するに「赤の日」「黒の日」を満遍なく一人づつ見ていくことで、話が少しだけループしながら進行していきます……という、言葉で説明しようとするとむちゃくちゃわかりづらいんですけども、やってみればすぐ把握できるでしょう。
基本的なシステム周りにも特に不備はありません。一通りのことはできますし、過不足なく収まっています。ただ一つだけ、うちの環境だけなのかわかりませんが、ウインドウモードだろうがフルスクリーンモードだろうがゲームを終了すると強引にリフレッシュレートを最低の60ヘルツに変えてしまいます。ゲーム中には何の問題もないんですがこれがちと面倒くさいかな。
<音楽>
基本的にちょっと暗い調子の曲が多いんですが、歌二曲は変に明るいというか不思議に穏やかな曲調で、「トキのかたりべ」なんかはなかなか心地いい曲なんですが、歌自体が正直あんまりうまくないというかなんというか。こう個性的な歌い方、という云い方をしておきますけども。エンディングの「無限廻廊」なんかすごく綺麗な曲なんですが、何歌ってるのかさっぱりわかりません。勿体無い。
声は全体的に悪くないです。中でも一番巧いのは主人公の「たろ」ですね。この声優さんがまた難しい役をうまくこなしてます。
<総合>
こういうフェティッシュな作品の場合、まずはっきりした傾向があって、それがどれくらい作中で叶えられているかというのがポイントになってくるのだと思います。この作品の場合もそれはハッキリしていて、主人公が「受け」になっているということですね。じゃあ、そういう方面から見てどうかというと、これはかなり高いレベルで完成されているのではないでしょうか。
ただし、「主人公がちょと酷い目にあう」程度のものではなくて、特に「黒の日」では普通の人だとちょっと引くくらいの目にあったりもしてますので、そのへんに関して多少の覚悟は必要だと思いますが、そういうの含めて「可愛い主人公の男の子がいろいろされる」シチュエーションに入れ込めるなら、この作品はアリでしょう。
さらに云うなら、この「館」と「ループ」という二つのタームから成る不思議さみたいなものの演出というのもかなりよく出来ていて、シナリオそのものよりも演出として見たときの完成度の高さにひそかに驚かされたりもします。そう云うことからすれば、この手の世界観が好きな人にお勧めしたい感じではあるんですが、そうすると前述の徹底的なまでの主人公受けがネックになってくるかなという気がします。
なんというか、それでもいいという人なら、ちょっとやってみても面白いと思います。作品の根幹にあるアブノーマルさみたいなものと、ループに伴う世界観の不思議さが妙にマッチしていて独特の雰囲気になっていまして、このあたりはなかなか他の作品では味わえない感覚だったりもしますので。ただし、返す返すもそういうアブノーマルな性癖に「耐えられるなら」という前提付ですが。
2005/12/10
戻る