みずいろ (ねこねこソフト)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4+3+
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

-持ち味が生きた「普通」のラブストーリー-

<シナリオ>
 作品コンセプトから「普通」をテーマに謳っているだけのことはあって、その舞台は実に何処にでもある学園恋愛アドベンチャーです。まあ、物語そのものは一部「普通」ではありえない現象が起こったりもしますが、それはまあそれとして、ってところでしょうか。あくまで「エロゲー・ギャルゲーとしての普通」を謳ったものだということなのでしょうから、これはこれでまあよいです。
 これは前作「銀色」の時もそうだったんですが、まず導入部分からして、文章のテンポのよさとキャラクターの引き立て方の巧さに思わず引き込まれます。こういうゲームの場合、とくに「読まされている」感じというのをいかに受けさせないかというのはなかなかに難しいことだと思うのですが、この作品に関してはそれはまったく心配要りません。とにかく文章を読んでいくことに対しての抵抗感が薄くて、自然と読み進めていける絶妙なテンポを奏でています。「銀色」の第一章のような美しさこそありませんが、この「文章のテンポ」という視点からすれば、この「みずいろ」はさらに上のレベルにあるのではないでしょうか。
 んで、次の「キャラクターの立て方」というのも流石。持ち味をうまく生かしきっています。キャラクター構成そのものは、天然ボケ系幼なじみや献身的な妹、同じく天然ボケ系先輩等々ギャルゲーエロゲーとしてはまったく珍しいものではありません。これだけなら別にああそうで終わりです。なのですが、この作品の場合はそこで終わらず、そのキャラクターをどこまでも世界の中へ溶け込ませています。さらに云えば、この作品の物語の半分以上は、それぞれのキャラクターを立たせるテキストで占められていると云ってもおそらく過言ではないくらい、物語の世界におけるそれぞれのキャラクターの立ち位置に拘っています。主人公の行動自体は、家と学園、商店街を中心としたいわゆる日常生活の範囲に限定されており、山場を迎えるまでは物語そのものに大きな起伏はまったくありません。が、それでも話そのものが「全体的に盛り上がっている」ように感じることが出来るというのは、おそらくこのあたりに起因するものなのでしょう。これはつまり、我々プレイヤーと主人公のいる世界を出来うる限り近づけることで発生する「ゲームとしての世界の展開」です。主人公とプレイヤーがイコールの作品においてはこの展開が非常に大きな役割を持っており、演劇や映画のような「目の前で展開する物語」と「主人公」を分離した展開(これを仮に「演劇的展開」と呼びます)とは全く異なった世界を見せてくれるわけです。この演劇的展開とゲーム的展開というのは根本的にまったく違うもので、その差が単に主人公の視点・目線の差でのみ生まれてくるものではないというのを端的に突きつけてきました。前作「銀色」は演劇的手法で描かれるべき作品で、とりわけ第一章においてはそれが驚くほど巧く展開しており、あの絶妙な美しさを生んだのだと思うのですが、そう云う意味においてはこの「みずいろ」と「銀色」は、その手法からしてまったく異なったものであると云えます。
 この「キャラクターの立ち具合の巧さ」がこの物語展開の手法に大きく関わってくるのは、つまりは自分自身とキャラクターたちの距離を近づけるための方法論が異なってくるからなのですが、この作品にいてはそのあたりに関してまったく不都合は生じていません。さらにそれだけでなく、キャラクターたちがみんな魅力的なのですね。わざとらしさやあざとさの一歩手前でとどまったところにいて、単純に「この娘は可愛いなあ」と思えるところできちんと収まっています。こういう意味でも、エロゲーギャルゲーとして「普通」なのは間違いないんですが、そのレベルは決して「普通」ではありません。こういうタイプの女の子が好きなユーザーならこういう風にすれば魅力が伝わるに違いないというラインをきっちり持っています。「やりすぎないで、やりすぎたとき以上に」キャラクターの魅力を引き出すとでも云うのでしょうか。
 で、肝心のシナリオですが、これも非常に完成度は高いです。先にも述べたとおり、本来はヤマ場のない序盤導入部からきちんと物語の世界に落とし込んでくれます。学園生活の中にある普通の日常と、物語の中の恋愛という非日常のバランスが絶妙で、ちゃんと順を追って物語が進行していくのが見えてくるわけです。正味、大きなどんでん返しが起こるわけではなく、ある程度物語が進んだところで、大まかにこうなるのかなという結末は見えてくるシナリオもあります。ですが、それはあくまで「大まかに」の話で、展開そのものはまったく見えてきません。さらにその結末が予想できたからと云って、物語そのものの魅力がまったく色褪せることがないのです。これは文章の美しさとかキャラクターの魅力とかもあるのですが、そこへ加えてシナリオの展開の絶妙さが作用しているのでしょう。所詮、恋愛アドベンチャーなんてものは極端な話をすればハッピーエンドはみんな「狙った女の子と結ばれる」ことなわけですから、あとはこの展開とその恋の模様をいかに書き出すかというのがポイントになってくるのでしょうが、変な云い方かもしれませんが、これが導入からヤマ場に至るまでまったく均等に、ハイレベルに割り振られています。クライマックス部分のぐっとくる泣かせる展開も、ここまでの書き込みがあってこそなのかもしれません。
 とりわけ日和、雪希シナリオの結末の美しさもさることながら、むつきシナリオのラストの告白シーンの終わらせ方というのは、あまりにも綺麗です。前者二つはスタンダードなラブストーリーとしての物語の美しさですが、このむつきシナリオの美しさはそこにとどまらず、その絶妙な終わらせ方が物語そのものの美しさをさらに盛り上げたのではないかという感じがします。あまり細かいことを云うと決定的なネタバレになってしまうのであれですが、ギャルゲーエロゲーをやり慣れている人であれば、ああきっとそういうことなのだろうなというのは読めると思います。じゃあそれが物語の最後の結末として完全に完結するのはいつなのかというと、これは主人公の中では完結しますが、プレイヤーにとっては決して完結しません。作品がそういう風に終了しているからです。先に述べた「演劇的展開」「ゲーム的展開」の話からすればハズシですが、これは明らかに意図的なハズシでしょう。このハズシが、終えたあとの物語そのものの美しさをさらに引き立てていて、個人的にはあそこで物語そのものを終わらせてしまってもよかったのではないかとも思います。ってまあ、このあたりの話はプレイ済みの人じゃないとなかなか意味不明の話だと思いますが。
 この作品、コンセプトの通り、ほんとうに「普通の学園ギャルゲー・学園エロゲー」です。メイドさんも巫女さんも出てきませんし、生まれ変わりとかなんとかそういうあれも登場しません。そのコンセプトの中できっちりと世界を描ききったという意味においても、シナリオの面ではおそらく間違いなくトップクラスの出来だと思います。個人的には全体として雪希のシナリオが一番のお気に入りですが、どの娘のシナリオも、読後は非常に心地よさが残ります。

<CG>
 全体的に綺麗。立ち絵の目がちょっと怖いですが、それもまあ別に気になって仕方が無いというレベルではありません。立ち絵そのものはなかなか魅力的ですし。一枚絵の枚数も少なくないですし、なによりこの一枚絵がどれも透明感のある綺麗な絵で、雰囲気には結構合ってると思います。まあ、一枚絵の中に何故か妙に線が黒い絵がときどきあったりしてこのあたりはよくはわかりませんが。

<システム>
 システム自体は特筆すべきポイントはありませんが、エロゲーとして考えれば過不足ないシステムです。スキップもCTRLキーでできて非常に高速ですし、フォントの変更も可能、セーブも不足することはないでしょう。面白いのは導入部の過去編でエンディングを迎えることが出来る女の子が決定してしまうことと、それによってキャラクターによってはまったく別の性格や境遇で登場することがあることでしょうか。わたしは日和のシナリオを最初にやったので、次の雪希シナリオでは結構驚きましたが。
 これはまあ、好き好きでしょうね。こういう揺れが気になる人もいると思いますから。わたしはそれが寧ろ物語の自由度を上げている部分も多々あると思いますし、取り立てて気にもなりませんでしたが。
 ゲーム中の期間は期末テストとテスト休みを挟んだおよそ二週間と、エロゲーとしては長くありませんが、内容が充実しているのでプレイ時間は結構長いです。シナリオの出来がいいので、その長さはほとんど感じませんでしたけどね。

<音楽>
 主題歌「みずいろ」はもう予め音楽だけ知っていたのでとりあえずは評価としてはおいておくとして、挿入歌もにいい感じです。まあ、あれに関しては使われるポイントというかタイミングの巧さもあるとは思いますが、曲単体でもなかなかに名曲であるのは間違いありません。地味な曲なので印象には残りづらいですが。
 個人的にはそれ以上に印象的だったのは劇中曲でした。これがもうほんとに、なんだってこんなってくらいに素敵な曲ぞろいです。まあ、ほとんどの曲が聞いてて心地いいんですけど、わたしが特に気に入っているのは、放課後のシーンに使われる「じゃあね」という曲。これがほんとに出だしの部分が学校のチャイムのアレンジ(というのかな)だったり、曲調も学校の放課後の期待感とか開放感とか、そういう微妙な感覚が巧く表現されてます。
 あと声。これも文句ありません。とりあえず、特徴的な台詞の多いキャラクターに声をつけると、ことによってはなんじゃそりゃあと激怒したくなる場合も多々あって、この作品だと日和とか麻美とかあたりはかなり厳しいことになりそうなんですが、これがそうではないんですよ。とにかく巧いんです。演劇技術的にどうこうというんじゃなくて、そのキャラクターを表現するのに最高の演出としての声を与えられている感じがします。ああいう天然系のキャラクターというのは、声をつけようとするとただぼけっと読めばいいとかそういうあれになって、それがなんとも云えないあざとさに繋がってしまったりもするんですが、これはそれがないのです。台詞の中に漫画的な言葉……たとえば「ぐっすん」とか「そわそわ」とか「おろおろ」なんていう言葉が入っていて、こう云う言葉というのはなかなかに実際の声でキャラクターそのものを表現するのは難しいものなのですが(本来は実際に云う台詞ではないわけですし)、これも見事にハマっています。日和の「るんらら〜」も、麻美の「めっ!」もなんとも云えない魅力がちゃんと伝わってきます。こればかりは技術云々では片付かない、一演出の中の「声」の魅力だと思います。

<総合>
 まあとにかくなんと云うか、読み物として非常に完成度の高い一作です。学園ものというジャンルは、ある意味で今では非常に難しいジャンルだと思うのですが、その中での美しさを徹底的に追求した結果とでも云いますでしょうか。いろいろと小難しい言葉で語ってはきたものの、この作品に関してはやっぱり一度やってみてその魅力がわかる一作である気はしますね。そんなもんどんなゲームでも同じなのですが、こういうとりたてて変化球のギミックを外側からは感じさせない作品の場合はなかなか伝わりにくい部分もあると思います。この作品くらい評判が立っていれば話はもちろん別ですが。
 これ、わたしは「再販版」というDVDにベタ移植したものを購入してプレイしましたが、既にもともとのバージョンは中古屋なんかではマジかよってな値段になってしまっています。この再販版もメーカー通販限定の作りきり売り切り販売なようですが、どうせなら思い切って販売してしまってもいいのではないかなと思ってしまうのですが。まあそのへんはメーカーの思索もあるだろうし別にいいんですけど、これくらいの作品だと、やりたいけど入手できない、というのがなんとなく勿体無いなあという気がどうしてもしてしまいます。
 なんとなく気になっているけど、まだの方は買えるうちに買っておいて損はしないかなと。既に買えなかったらごめんなさいということでひとつ。


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