Love Letter(美遊)
項目 | シナリオ | 絵 | システム | 音楽 | 総合 |
ポイント | 2 | 4 | 3− | 3− | 5+ |
シナリオ:M.K
原画:綾風柳晶
音声:有
主題歌:無
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-エロを感じられるかどうかで…-
<シナリオ>
なにも予備知識なしでこのタイトルを見たとき、きゃぴきゃぴの制服姿の女の子(幼馴染・ナマイキなスポーツ万能少女・無口な先輩・病弱なお嬢様)とお嬢様お付きのメイドさんとお兄ちゃんお兄ちゃんと慕ってくれる義理の妹と昔から憧れていた近所のお姉さんあたりが主人公となんだか毎日の生活の中でいい関係になって最後は手紙を渡されてそこで結ばれる、などというようなきわめてパターン化されたギャルゲーの延長にあるようなエロゲーを想像する人というのは決して少なくないと思いますが、それはもう大間違いです。まあ、血まみれの手紙を口に咥えて切なそうにこちらを見る女の子、というデザインのパッケージを見てそういう想像をする人はきわめて少数だと思いますので、間違って買っちゃいましたということは絶対ないと思いますけど。
主人公は医科大学の助教授で、普通に生活している中に突然謎の手紙が届きます。そこには「世界で一番アナタを愛するもの」という署名によるストーカーを髣髴させる狂気じみた手紙、そして人間の皮膚が入っている……と、こんな感じで事件が始まります。あとはここからその犯人探しが始まるうちに、次々とまわりにいる女の子たちが殺されて……という、まあ推理サスペンス系ではパターンとして珍しいものではありません。ジャンルとしては、いわゆる猟奇モノです。
これ、最初のうちは面白いです。事件が起こり始めてからは次の展開が気になってぐんぐん引き込まれますし、どんどん残虐化していく姿の見えない犯人の行為や、詰めれば詰めるほど新しいことが見えてくる展開というのは結構読ませてくれます。
なのですが、これを最後までそのテンションが維持できるかということになると、ここはちょっと疑問が残ります。
この作品、最初は主人公の視点から話を進める仕掛けになっているんですが、クリアするごとに別の視点からのシナリオが見られるようになります。それによってひとつの視点からでは見えない犯人がどんどん解っていく、というギミックです。これは、同じような猟奇サスペンスもので評価の高い「螺旋回廊(rouge)」と同じシステムでして、その作風を見るにつけても、このスタッフが「螺旋回廊」を意識して作ったというのはおそらく間違いないと思います。これで「螺旋回廊」なんて知りませんと云ったらそれこそそりゃなかろうさ、ってことになるでしょう。
まあ、別にパクリとかそんなつまんないことを云うつもりは毛頭ありません。そんなことよりも気になったのは、この別視点によるシナリオ展開が、この作品ではほとんど生かされていないという事実です。
これには大きく二つ原因があります。まず表層的な面だと、主人公以外の視点の文章があまりにも拙いこと。こんなこと素人のわたしに云われる筋合いはないと思うんですが、それでもどうしても気になってしまいます。と云っても表現がマズいとかそういうことではなくて、地の文が明らかにおかしいのです。
主人公は男性ですから、当然その視点も男性のものです。ですから、地の文は「俺はこう思った。しかしこうなったのだった」という文体になります。これは別になんらおかしいところはありませんし、この主人公視点の文章は実際に読むにつけてもテンポのいいものです。先に書いた「最初のうちは物語に引き込まれる」というのは、この文章のテンポのよさにも起因しています。これは間違いないでしょう。
なのですが、これが主人公以外の視点になると話が変わってきます。別視点のキャラクターは全て(と云っても視点を使えるのは二人しかいないんですが)女性です。で、シナリオの人もそれを意識したのでしょう、地の文を変えているんですが、これがどうも、「私は思ったのです。でもこうなりました」だとか、「わたしは思ったわ。でもこうなったの」みたいな、コントに出てくるオカマの日記かおまえは、というような実にテンポの悪い文章になってしまうのです。別に普通に「だ、である」でいいと思うし、どうしてもそれを変化させたいのなら、もうちょっと自然にやってもいいと思うんですがどうもそのへんシナリオライターさんのプライドなのかもしれません。
あともうひとつ、内側のほうを見てみた場合、「視点が変わるとストーリーが変わってしまう」という致命的な欠点を抱えています。視点が変わればストーリーが変わるのは当然じゃないか、とあなたは云うかもしれません。違うのです。この作品の場合、犯人は(おそらく)同じなんですが、その各々のエピソードや、ひいては事件そのものが大きく変化してきてしまい、「視点を変えることで事件についてプレイヤーが知りうる情報を小出しにする」という演出的に大きなメリットがまったくなくなってしまいます。
たとえば、あるシーンで主人公が駅に行ったときに偶然Aという人物に会うというシーンがあったとしましょう。この場合、本来であればどうしてAという人が駅にいたのかというのは最初の視点ではわからなかったのに、Aの視点でやってみるとその理由がわかる、みたいなギミックが面白いわけです。んで、それが積み重なって事件の真相を知るというのがこの視点切り替え式アドベンチャーの醍醐味みたいなものでしょう。
ところがこの作品の場合、先の例えで云うならばAの視点でやってみたらそもそもAは駅などに行かない、まったく別のシナリオが展開してしまうのです。もちろん別視点でまったく同じ話である必要はないし、それはそれでまた退屈なものになってしまうんですが、別の物語を展開させるのは、それぞれの視点が物語の佳境に入ってからでなければ何の意味もありません。そしてまた、そのせいで犯人やそのまわり人が事件や行動を起こした動機がものすごくちぐはぐなものになってしまっています。特に綾なんかはもうどういう位置付けなのかさっぱりなことになっていてわけがわかりません。
そして内容面でもどうも今ひとつ盛り上がりにかけた気がします。確かに結末は意外です。ですが、この意外さは卑怯です。ネタバレになってしまうのであまり細かいことには触れられないのですが、とりあえずすべての視点を読めば犯人はわかるものの、最初に読める主人公の視点での「犯人」は、結局最後までわかりません。これがどういうことか解りづらいという人もいますでしょうからネタバレを避けるために極力情報を少なくして説明しますと、主人公の視点では全員死ぬとかなんとかで、登場したキャラクターの中で「犯人だと疑われる人」の存在がいなくなります。つまり、主人公視点終了時点では、犯人は「まだ主人公視点終了時に登場していないキャラクター」でないとおかしい、ということになるわけです。まずこの時点でサスペンスものとしては反則だと思うのですが、視点を変えてやってみると、実はあの人が犯人だった、ということが語られます。その人は主人公視点では決して犯人ではありえない(まあ、実はあそこで登場したのは偽者ですと云ってしまえばそれまでなのですが、推理モノのセオリー云々はともかくとしてもそれだと後で語られる犯人の独白に意味がなくなってしまいますからそれはありえません)ので、つまり「主人公視点での犯人の正体は最後までわからない」のです。主人公視点終了時、いったいどういうことなんだろうとマジメに考えたのがアホらしくなるような結末です。
まあ、それをものすごく大幅に譲歩してOKだとしても、今度は単純に複雑すぎる人間関係にぶつかります。人間関係をメモするメモ紙は必須です。まあメモしててもわからなくなりますが。特に主人公とやよい、瑞穂の関係は、きっちりと理解しようとすると複雑すぎ。複雑な人間関係はサスペンスにはつきものですが、しかしここまで複雑にする必要があったのかというとこれは微妙なところです。まあ、それだけにトゥルーエンドは結構綺麗にまとまってたりもしますが……そこまで行くのに疲れてしまうかもしれません。
ですが、エッチシーンは特筆モノ。いえ、うわあこれはスゲーエロい、というわけじゃありません。
なんせ「猟奇サスペンスアドベンチャー」ですから、普通のエッチもあることはありますが、エッチシーンの大部分はきわめて猟奇的なものです。と云うと鞭とか蝋燭とか、せいぜい三角木馬とかそういうあれだろうと思ってしまうのですがそんな生易しいものではありません。ベッドに固定して麻酔なしでメスで解剖するとか、女の子がピアノ線を張り巡らせたメリーゴーラウンドの真中の柱に縛られてメリーゴーラウンドが回ればそれだけピアノ線が締め付けられて最後に体がバラバラになりますとか、棺桶のような箱の中に女の子が体を固定されていてそこに大量のヒルを入れられ云々とか……そういうそれはもうただの拷問ではないのかというかそもそもこれはエロシーンなのかと突っ込みたくなるようなシーンがてんこ盛り。しかも絵が結構なクオリティな上に声アリだからそういう断末魔の叫び声みたいなのがちゃんと入ってるわけですよ。普通の学園ものラブラブ萌え萌えなストーリーが好きなんです血とかそういうの絶対だめなんでなんて人はもちろん(そんな人はそもそもこの作品やらないと思いますが)、SMっぽいのが好きなんて考えで気軽に手を出すとこれ絶対耐えられません。そんだけキツいです。そのぶんその手のエログロ(と云っていいのかどうか)が好きな人にとってはもうたまらないのではないでしょうか。絶対に一般受けしないと思いますが、っていうかこれが一般受けする世の中はちょっと嫌です。
<CG>
巧いです。背景やキャラの立ち絵とかもそうなんですけど、とにかく一枚絵のクオリティが高いというか、女の子が可愛いんですよ。しかも枚数も多くてそれだけでも大満足。なんですが、それだけにこの作品特有の殺害系のシーンは強烈そのもの。逆にこのクオリティだからこそ、あの手のシーンの迫力というかグロさというかそういうものが出ているのかもしれません。
<システム>
マルチ視点システムの問題については「シナリオ」の項目で散々触れたのでそれはまあここではおいとくとして、ゲームとして考えたときの選択肢選びは結構シビアかもしれません。特にCGやシーン回想を全部100パーセントにしようなんて考えると大変だと思います。クリア必須のミニゲームなんかもありますが、まあこれはそんなに難しくないので問題にはならないでしょう。まあ、セーブポイントは必要にして十分な上、コメントをつけて保存もできるので活用すればオールクリアはそんなに難しくはないと思います。
また、回想モードに関しても非常に充実していて、「シーン回想」では通常のエッチシーンに加えてそういうエログロシーンの回想も可能になっています。まあ使う使わないはおいておくとしても、このへんは実に「わかっている」感じがします。
既読スキップはありません。強制スキップはCTRLキーを押しっぱなしにすることで可能なんですが、メニューからの「スキップ」はできないので、スキップしたいときはその間ずっとCTRLキーを押しつづけなくてはなりません。スキップ自体は結構高速なんですが、繰り返しプレイではそのへんは少しうっとおしく感じるかもしれません。バックログがないので調子に乗って飛ばしすぎるといつのまにか読んでないメッセージも飛ばしてしまったりしますし。
でも、実はこれあんまり関係ないんですよね。基本的には別視点シナリオで話が進むわけですから、一度ひとつの視点をクリアすれば次はまったく別の視点でストーリーが始まるわけで、同じような話であっても既読フラグが立つことがないのです。既読スキップが欲しいときは、セーブロードを使ったシーンとCGの回収のときくらいでしょうか。
さらに、つまんないことかもしれませんが、ゲームパッドでの操作が可能なのは結構便利かもしれません。まあ、セーブロードの画面でカーソルが動かせないので結局マウスかキーボードを使わないことにはどうにもならないんですが。まあ、わたしはゲームはタブレットでやるんであんまり意味は無いんですけど、椅子に体を預けて読み進められるのは結構楽なもんです。
修正パッチなし、誤字脱字は少々あるもののバグなし。そのへんは優秀だと思います。
<音楽>
曲はあんまり印象に残ってないです。後からこれ聞きたいなあってのもなかったし。
しかし、この声はちょっといただけません。ヘタクソっていうのともちょっと違っていて、なんというかこうへんにわざとらしいというかなんというか、平たく云えばなんとなく芝居がかっていてちょっと馴染みません。声質はイメージにしっくり来るんですけどね。まなみあたりは特にそれが顕著。いわゆるロリキャラにありがちな舌足らずな感じというのを出そうとしてるのかもしれませんが、逆にどこかちぐはぐな感じになってしまっています。あと看護婦の中井さん。なんかこう、実にもどかしい。
それなのに悲鳴(喘ぎ声ではありませんので注意)とかはもうえらいリアルなのよこれが。
<総合>
まあ、わたしの場合はサスペンスものに期待して買って強烈なエログロシーンにちと衝撃を受けっぱなしだったわけですが、俺はもう国から残虐行為手当を貰ってるぜ!なさけむよう!というような人であれば、ここまで徹底的にやってるアダルトゲームってのはそんなにないのでいいのかもしれません。ただ、いわゆる推理とかサスペンスとか、つまるところ話の内容方面で期待すると少しばかり肩透かしを食らうかも。自信のある方向けですね。なんの自信なんだか。
2003/9/18
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