THE IDOLM@STER DearlyStars(BNGI)
項目 | シナリオ | 絵 | システム | 音楽 | 総合 |
ポイント | 4 | 3+ | 2+ | 4 | 7− |
シナリオ:
原画:
音声:一部
主題歌:有(『“HELLO!”』『ALIVE』『プリコグ』『Dazzring World』など全10曲)
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<シナリオ>
本編『アイドルマスター』シリーズの舞台である「765プロ」とは別の事務所、「876プロ」にてデビューすることになる3人のアイドルの物語。3人のうち、最初に選択したキャラクタによってストーリが大幅に変わってきます。
ひとつ大きなポイントは、本編『アイドルマスター』の「プロデューサーになってアイドルを育成する」のと異なり、「自分自身がアイドルになってアイドルとして成功していく」という、よりプレーンなアドベンチャーゲームに近いものになっているところです。
それにより、本編『アイドルマスター』では想像である程度補うようにされていた日常生活やイベントなどといったストーリーが、この「DealyStars」(以下・「DS」)では子細なところまで描かれるようになっています。
もちろん、プレーンなアドベンチャータイプのものに比べれば圧倒的にこちらに与えられる情報量は少ないのですが、本編のものよりははるかに多いです。ゲームシステムなどもまったく異なるところなので、本編とは同じ世界観やキャラクタを使った別物の作品だと思ったほうがいいかと思います。
シナリオそのもの、というところで見ていくと、いわゆる普通のサクセスストーリなので、それほど特別に見どころがあるかというとそういうわけではないのですが……なぜかこの中のひとり、秋月涼のシナリオだけ飛びぬけて「力が入っている」感じがするんですよ。
主人公3人のプロフィールとストーリに簡単に触れていくと、「日高愛」が大物アイドルの娘として母親の重圧に負けないよう大成していく話、「水谷絵理」が引きこもり気味のネットアイドルの少女がデビューしてアイドルになっていく話で、この「秋月涼」はいつも男として扱われない扱いに耐えかねてイケメンアイドルを目指すために女装して女性アイドルとしてデビューする……という、明らかに一人だけプロフィールや設定からして「尖っている」んですが、尖っているぶんだけストーリも作りやすいのかもしれません。
……まぁその、個人的に女装少年モノが大好きだという事情がありますし、それでプラス補正が入っているのは間違いないとは思うんですけど、あえてそれを差し置いたとしても、やっぱりこのストーリだけ妙に力が入っていて尖っている、という感じはあるのではないかなと思います。
選択肢ひとつとってみても、この秋月涼シナリオだけは妙に面白いものが混じっていたり、その反応もこれまた妙に面白かったりしますし、ストーリ進行もまた結構意外性あるもので、なるほどそういう展開になるのか、と思ったりするところも多々あります。
コレはある程度、ほかの2人にも云えることではあるのですが、他の2人に比べて遊びが多い分だけ、この秋月涼シナリオというのはいじりやすく尖らせやすいのかもしれません。明らかにこの秋月涼シナリオだけ頭一つ抜けて楽しませてくれます。
で、なによりも、ここからさらに「女装少年モノ」というジャンルでくくってこの秋月涼シナリオを見ると、これがなんていうんだろう、むちゃくちゃエロいんですよ。
いえ、もちろん全年齢向けのゲームですし、なにかそういう直接的な行為があったりとか、変な話パンツが見えたりみたいなことも一切ありません。
ないんですけど、なんだろうな、普通に女性が主人公で進行していくものよりも、意図的にかそうでないのかはわかりませんが「想像させる」ところがものすごく多くて、それが結果的になんともいえないエロさみたいなものに繋がっているんですね。
直接的にセックスシーンや性器描写があったり、あるいは露骨なパンチラとかで煽情的にさせる「エロさ」みたいなものもそれはそれでなんですが、それとはまた別の意味で、こういう「想像させるエロさ」みたいなものって、すごくいいんですよね。
特にフェティッシュなところに依存するエロさって、こういう「寸止めの感じ」や「日常の中に潜む普通のエピソード」が、時として直接的なエッチ描写を越えることがあるという好例なんではないかな、と思います。
エロ満載のエロ漫画の中のエロシーンよりも、少年漫画や少女漫画の中にあるエッチな描写のほうが、なんかこう燃えるものがあるのと同じですね。
とはいえ、それはちゃんとした「描き方」があってのことで、そこがいい加減なところで済まされてしまっていては、ただ「なんとなくそんな感じ」で過ぎ去ってしまうものになってしまいます。
そこへいくと、このシナリオでの「女装少年の書き方」みたいなものって、そういう「想像させるところ」をものすごくうまく料理してあるんではないかなと思うんですよ。ここは直接書かないで想像させたほうがよりエッチな感じになるとか、そのジャンルが好きな人はより楽しめるとか、そういうところのコントロールが絶妙なんですよね。
だから、ストーリとしてもうまくできてるなあというのはもちろんですが、何度も書いているとおり、「女装少年モノ」というジャンルで考えると、えもいわれぬエッチさがあるんです。
そういう意味でも、特にこの秋月涼シナリオは非常に面白いです。
加えて、キャラクタは3人とも、本編の『アイドルマスター』に負けないくらいか、あるいはそれ以上に魅力的に描かれているのではないかなと思いますので、そういう魅力は過不足ありません。
<CG>
キャラクタの立ち絵などはかなり自然ですし、デザインなどもかわいらしいので、パッケージで見て気にいったのであればそんなに違和感は感じないかと思います。DSの下の画面には常にキャラクタの顔が出ていて、それが表情差分表示になっているので、おそらく表情バリエーションはそんなに多くないとは思うのですが、結構くるくると変わっているような感じがしてきます。
このおかげで、普通のアドベンチャーゲームによくある、「相手が喋っているときには主人公の表情がわからない」という表情差分表示の欠点はうまく解決されていますので、基本的には好きなアイドルの表情をずっと見ていられるというのは演出としても上手いんではないかなと思います。
ただし、見方によっては画面ひとつがキャラクタのバストアップだけに占領されているので、無駄が多く感じるかもしれませんが。
また、ステージモードではモデリングされたキャラクタによるステージが楽しめる……のですが、これはやや荒削りかな。ハードの性能を考えれば頑張っているのだと思うのですが、とくにアレンジを変えて振付を変えると、切れ切れの動画になってしまってなんとも不自然です。ゲーム的なものと直接関係ないので、別にいいのかもしれませんけどね。
<システム>
これを、「育成モノのゲーム」として考えると物足りないというか、正直かなり作業感が出てきてしまいます。
こちらで操作できるのは、選択肢を選ぶ(選択肢のかわりに画面をタッチするものも含む)以外では、ボーカル・ダンス・ビジュアルの三種類のレッスンとオーディションになるんですが、これがどれも非常に機械的。とくにレッスンは、隠し営業(後述)を見るためには何度もやらなければならないものなのですが、とにかく作業感がありすぎてちょっとつらい、というのが正直なところです。
いわゆるサブストーリ的な扱いである「隠し営業」を見るためには、特に必要ない状態になっても(アイドルが「こんなにレッスンばかりしてていいのか」とか自分で云い始めても)なおレッスンをしたり、特に必要もないのに休みを取ったりする必要があり、それに対してのヒントがほとんどないので、情報なしの状態でこれを見るのは非常に難儀します。
逆に、そういう隠し営業などを一切無視して進めていけば、結構あっという間にゲームが終わってしまうんですね。
が、「育成モノ」ではなく、「育成要素もあるアドベンチャーゲーム」としてなら、まあ、こんなもんかな、という感じです。
また、そういうシステムなので、戦略性というのもあまりありません。いつまでもオーディションを受けずにずっとレッスンをしていても別にペナルティもありませんし、オーディションが受けられるようになったらすぐにオーディションを受けても問題ないです。ちょっとレッスンしすぎるとライバルが強くなるとか、もっと云えばゲームオーバーになるとかそういうこともありません。
そのオーディション自体も、ステータスが上がれば「簡単に合格できる確率」は上がるものの100パーセントにはなりませんし、逆にどんなにステータスが低くても絶対に10パーセント以下にはならないので、ある意味で完全な運の要素に左右されるしくみになっており、「合格した!」という達成感みたいなものはまったくありません。このへんが既存の『アイドルマスター』シリーズとまったく違うところでしょう。
ですので、基本的には本編よりもはるかに「やらされている感」が強いので、ゲームとしてというより、キャラクタの魅力やストーリを楽しむもの、という扱いなのではないでしょうか。
ただ、それ以外のストーリパートなどは結構さくさくっと進みますので、ストレスはそんなに感じません。
<音楽>
これはもう、文句なしに凄いです。よくまあDSでここまでやるなあ、という感じ。特に歌がちゃんと3人分、同じ曲でもバリエーション違いで収録されている(まあ、システム上収録せざるをえないんですが)というのはなかなかに凄いのではないかな。音質が特に悪いとかいうようなこともないので、普通に「聴く」ものとして楽しめるのではないかなとも思います。
『アイドルマスター』の楽曲はとにかく曲数が多いので、いままでの作品で使われたものが再び使われていたりもするのですが、当然今回登場する3人は全員新キャストなので、曲は同じでもちゃんと録り直しがなされています。
新曲の中では『“HELLO!”』が非常にアイドル曲らしくて元気な感じで聴いていてすっきりします。
音声はもうひとがんばり欲しかったかな。まあ、DSでちゃんと喋るというのはコレはコレですごいことなんだというのはわかるんですが、主人公3人と既存『アイドルマスター』に登場するキャラクタたち以外は、いかなる重要人物であっても音声はありませんし、これら音声がついているキャラクタであっても、なぜか上に書いた「隠し営業」では一切音声がありません。いろいろ容量とかの兼ね合いもあるんでしょうけれども、ちょっとさびしい気はします。
<総合>
『アイドルマスター』という作品を通してやっているようなコアなファンが、従来の『アイドルマスター』感覚でやってどう思うか、というのを別にすればという前提条件がつくものの、コレはコレで結構面白いんではないかなと思います。
上にも書いたとおり、シナリオやキャラクタの魅力という意味では申し分ないですし、特に秋月涼シナリオの尖り方や楽しませ方みたいなものというのは、少なくとも「全年齢の女装少年ジャンル」というジャンルでくくった中では割とトップクラスのエッチさみたいなものを感じさせてくれるものですしね。
そういう意味では非常に面白くはあるのですが、『アイドルマスター』というシリーズの中にあるひとつの作品で、さらにあくまでも外伝的な話でもあるので、本流の『アイドルマスター』シリーズをやっている(あるいはやっていなくても、キャラクタやキャラクタにまつわる基本バックボーンを知っている)ことはある程度前提になってくるのかな、という気がします。
もちろん、それを知らなくてもとくに問題はないのですが、そうでないと主人公に協力してくれる『アイドルマスター』キャラクタが誰だかわからなくなってしまうので、「楽しむ」という意味ではそこが必須になってくるのかなとは思いました。
その前提条件の上では割と面白い作品だとは思うのですが、やはりどうしても、いろいろなところで「やりたいことに対して、制限の中で無理をしている」感じというのがあって、それがもったいないかなという感じはします。
たとえば上に書いたように、自分で好きなようにアレンジできるステージシーンを動画で再生できるようになってはいるものの、その動きは非常に荒いモノでとても自然な動きには程遠くなってしまいますし、音声が入っているとは云うものの、重要なサブキャラクタや隠し営業では音声がなかったりするなど、「こういうことがやりたい」に対して現実が追いついてない雰囲気はどうしても感じてしまいました。
それがハードの制約なのか技術の問題なのかはわたしにはまったくわかりませんけど、コレはちょっともったいないかなとは思います。
でも、システム面でちょっとかったるいところはあったりはしますが、ストーリだけを追い求めていくのであれば、コレは結構面白いのではないかと。
ある意味で「すごくよくできたキャラゲー」なのかもしれません。
2012/02/29
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