ひまわり(ぶらんくのーと)
項目 | シナリオ | 絵 | システム | 音楽 | 総合 |
ポイント | 5 | 3+ | 3+ | 3 | 8+ |
シナリオ:ごぉ
原画:たつきち
音声:なし
主題歌:無
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<シナリオ>
「宇宙部」という部活で活動する記憶喪失の主人公。ある日、空から公園に落ちてきた謎の物体から、一人のやはり記憶喪失の少女・アリエスが出てきた。なし崩し的に二人は「同棲」することになって……。
というような始まりで、なおかつ「ロリっ子宇宙人同棲アドベンチャー」という謳い文句ではあるのですが、実際のところそういうところから連想されるような類の話ではありません。宇宙を舞台にした、かなり本格的なファンタジーです。
シナリオの展開としては、最初に読めるシナリオ終了後に一つずつシナリオが開いていき、合計で4つのシナリオを読んだところで作品全体としての物語が明らかになるという構造なのですが、これが実にうまくできています。
隠すべきところと出すべきところ、そして隠していたものを出すタイミングの一つ一つが巧く構成されているので、一つのシナリオが終わったところで、じゃあ次に行きたい……と思わせる仕掛けがものすごくしっかりしているのですね。
確かに一つ一つのボリュームはかなりあって、その総量だけでも同人ソフトとしてはかなりのものではあるのですが、そういう展開の巧さのおかげでだらだらした感じは受けません。むしろ、「次を読みたくなる」という意味での引き締まった感じさえ受けます。
それがあってこそ、終わった後に「なるほど」と思わせてくれるような気持ちよさというか、物語を読むことで得られるカタルシスをより一層強く感じることができるのです。
この『ひまわり』は「宇宙」をテーマにして物語が進んでいくのですが、決してSFではありません。科学的考証がどうとか、そういう細かいところはとりあえず置いておかれています。
ただし、それを完全におろそかにしているわけではなくて、舞台になっているところはものすごくしっかりと作りこまれているのが特徴です。例えば登場する宇宙ステーションひとつとっても、その設定は根幹のところでとてもしっかりしているので、読んでいても軋みや歪みは感じません。
宇宙を舞台に……と云ったところで、SFというジャンルにあるような、例えば「ワープ」という概念(云うまでもないことですが、この作品にはそういう類のものは出てきません)を科学的矛盾がないように説明するようなことはこの作品では行われません。
ただし、現在ある「宇宙」という概念でどう物語を展開するかにあたり、細かい設定はかなりしっかりと作りこまれています。これはおそらく、シナリオを書いたライターの宇宙に対する思い入れと調査があってこそ成り立つものでしょう。
物語がすべて終わり、謎が解けたところで得られる気持ちよさというのは、おそらくそのあたりにも起因するものです。
その設定がしったりしているからこそ、物語の途中では結構謎が謎のまま展開していき、ひとつの謎が解けたところでその謎がまた別の謎を呼んでいく……という構造がうまく動いているのではないかと思います。だって、そのあたりの底が浅いものであれば、まず先にありきであるはずの「先を読みたい!」という感覚が反故にされてしまいますから。
中身のほうにちょっと触れてみますと、ちょっとしたネタバレになってしまいますが、一番印象的なのはアクア編でした。アクア編は「いろいろな謎が一気に氷解するから」というのもあるのですが、その前にある、宇宙を舞台にして展開していく「もしも」が非常にうまく生かされていて、読んでいてなんと云いますか刺激的なのです。ともすれば、このチャプターはやや「SF」寄りかもしれません。
そしてまた、ここで深く掘り下げられた謎が、巧く前や後ろのチャプターと繋がっていき、最後に収まるところにきっちり収まるあたりに、このシナリオ構成から来る面白さが画されているのではないかと思います。そういう意味で、(もちろん全部のチャプターがきっちりした意味を持っているのはあくまでも大前提として)このチャプターが個人的には読んでいての楽しみは一番大きいものでした。
また、宇宙を舞台にする以上、ある程度のトンデモ展開というか、そりゃいくらなんでも、というところが出てくるのは仕方がないことではあるのでしょうが、この作品ではそれを無理のあるものとして感じさせないあたりもまた魅力の一つだと思います。このアクア編はそのあたりも強く出ていて、むしろそれが一つのアクセントとなって読む側に刺激をくれるのです。
キャラクタメイキングの面でもこの作品は巧く、いわゆるステレオタイプなキャラクタ設定にプラスアルファをすることで、嫌味やアクのそれほど強くない、それでいて印象的なキャラクタを魅せてくれます。
メインどころだけならば男性・女性合わせてもそれほどキャラクタ数が多いわけではないのですが、一人一人の個性がきっちりと展開していく物語の中で生かされており、うわべの特徴やキャラクタ性で個性を出しているので、ストーリーが展開していってもその中でキャラクタが頭の中にちゃんと残ってくれるのは大きいです。
ここまでの大ボリュームで、しかも同人ソフトということを差し引いたとしても、この作品の物語構成および展開については、非常に丁寧に作りこまれていると云ってよいでしょう。単純に「面白い物語が読みたい」人はもちろんですが、「宇宙」というタームに興味のある人ならば、これを書いた作者の楽しさが伝わるような面白さを感じられるのではないかと思います。
ちなみにこの作品、18禁ソフトなのでアダルトシーンもあります。それぞれメインヒロイン一人につき一つずつ用意されているのですが、それ自体のボリュームはさほどのものではありませんので、そこに期待するとちょっとがっかりするかも。
そういう意味で、看板の「ロリっ子宇宙人同棲アドベンチャー」という語幹からくるものに期待してしまうと肩透かしを食らうと思いますので、そのへんは承知の上でプレイしてください、というところでしょうか。
<CG>
悪くありません。全体的に一枚絵がちょっと少なく、ここで一枚絵が欲しい! と思うところが何箇所かないわけではないのですが、そのへんは商業ベースのものと違い、線画から仕上げまで基本的にすべてを一人でやらなければならないことを考えても、致命的なくらい少ないというわけではありません。
絵自体もさほど好き嫌いのなさそうな、感じのいい絵です。明香とか立ち絵の向きによって若干不安定さが出るキャラもいますが、全体としては可愛らしくて雰囲気のいい感じがします。
<システム>
ノーマルのアドベンチャーですが、使い勝手はよく、ストレスはまったく感じません。一つの項目を選ぶと「はい」「いいえ」の位置にマウスカーソルが移動したりという細かさも結構効いていますし、スキップも高速でセーブポイントも多く、ストレスを感じることはまずないでしょう。
パッチをまったく充てない状態だと、細かい誤字脱字および改行スクリプトのミスなどはありましたが、それでもゲームに支障をきたすほどのバグもありません。
シナリオそのものは、まずい選択肢を選ぶと基本的にすぐにバッドエンドになるシステムなので、フラグもそんなに難易度が高いわけではありませんし、万が一バッドエンドになってもそこから直前の選択肢へ戻ることができるので、バッドエンドを回収しながらでも進めることができます。ので、とりあえず自分が思った選択肢を選んでゲームを進めていくのがベストなのではないでしょうか。
ただし、アリエス編以降二つへのシナリオ分岐はちょっとわかりにくいかもしれませんので、これはちょっと考えるかもしれませんが。
<音楽>
エンディングクレジットを見ると、フリーの音楽素材を使っているとのことなのでここではとりあえずあまり多くを語ることはしません。曲数は多く、曲自体もシーンそのものにマッチしたものですので、このあたりでのストレスもありません。
音声は男女両方ともありません。
<総合>
これ、同人ソフトなわけですが、総合的にこの作品がいいなあと思うのは、このシナリオライターの方が本当に宇宙が、そしてこの作品が好きなんだなあ、というのがわかるところなんですよ。
宇宙というものが好きで、宇宙に憧れているからこそ書ける話の展開というのは、やっぱり「好きだからやる」というそういう同人ならではの姿勢からこそ生まれてくるものなのだなあ、と思います。
いろいろ異論反論はあるかと思いますが、どうしても商業ベースでは、「好きだからこれを作る」がやりづらいのは事実でしょう。商業ベースというのは、つまるところ「利益」を追求しなければならない……という大前提がありますから、「好きだから」でできるところというのはある程度狭まってきてしまいます。
そこへきて同人ソフトならではの小回りの効きと丁寧に書き込める余裕。そしてなによりもこの作品、これはあくまでも推測でしかありませんが、製作者の方が本当に楽しんで作っているんだろうなあ、というのが伝わってくる気がするんですね。
もちろんユーザに楽しんでもらいたい、という気持ちはあるでしょうが、それと同時に「作っている自分が楽しめる気持ち」。これって、別に同人に限ったことじゃなく、すごく大切なことなんじゃないかなと思うのです(とはいえ、商業ベースではそれだけで成り立たないというのは云うまでもない事実です……が、さしあたりこれはこの作品の話と関係ないものになってしまいますので、とりあえず今回はおいておきます)。
そういう意味でも、いい意味で「同人らしい」作品なのかもしれません。無論、同人ソフトであるということ云々はとりあえずおいておいて、商業ベースのソフトと並べて考えてもハイクオリティなのは間違いありません。
同人ソフトなのでどうしても買えるところは限られてしまいますが、もしイベントやショップなどで入手できる機会があるならば、ちょっとお勧めしてみたい一作です。
2008/05/01
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