はっぴ〜ぶりーでぃんぐ (Purple Software)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3+
シナリオ:島津出水
原画:岩崎考司
音声:有
主題歌:有(オープニング:『恋になりますように』/エンディング:『いつまでも』)

<シナリオ>
 主人公は一人暮らしの男性。そこに突然四人の女の子の居候がやってくることになります。しかもその娘たちがみんな普通の娘じゃなくて、犬と猫、鶴、金魚という動物たちが人間の恰好をしていて、というのがストーリーの基本……なんですが、はっきり云いましょう。これだけだと、かなりトンデモに紙一重です。
 「ボク、犬だもん」という女の子の台詞を、それはそれとしてと普通に流してしまう主人公は、ちょうどあのコンシューマゲームの、妹が突然三人増えたのをごくあたりまえの状況として受け入れてしまった彼と非常に近いものがあります。
 見も知らない女の子が来て「居候させて」というのを、これまたごくナチュラルに「へんなことをしないならいい」などとその場で即決してしまったりとそのあたりは余念がありません。しかも四人。
 ですが、この作品は、そういう突っ込みを拒絶する他の魅力を持っています。
 一言で云ってしまえば、とにかくそのいっしょにいる生活が楽しいんですよ。
 もちろん話自体はまったく現実的ではありません。ありませんが、現実的か否かなどというようなことを超越して、そこにある生活が楽しくて仕方が無いのです。
 日常生活で、こんな賑やかな生活だったら楽しいだろうなあという描写があまりに巧いんですよ。テレビのチャンネル争いも、食事の賑やかさも、全てがいまそこにある生活のしあわせの演出になっていて、いちいちそれがつっかかってくることなくそこにありつづけるのです。
 この「いっしょにいて、なんとなくしあわせ」という感覚がこの作品の根幹です。
 なんでだかわからないけど、すごくしあわせですごく楽しくて、文章を読んでいくことがもうそれ自体で楽しいんですね。
 オープニングのデモを見ても、決してカッコよかったり凝った演出があったりするようなものではありません。ですが、このオープニングからも、この「なんとなくしあわせ」テーストが漂ってきています。
 これはもう、みんながいっしょにいて、みんなで騒いで、そんなあたたかさっていいなあという、物凄く普通のしあわせ感覚なのでしょう。
 そんなでも、物語のクライマックス部分ではしっかり盛り上げてくれて、スタンダードな展開ながら、きっちりと感動させてくれるのもまたポイント。
 先が読めないようなどんでん返しも、意外な謎や因縁もまったくありません。それでも、それまでのあまりにしあわせな展開があるからこそ、そのクライマックスはなかなかに盛り上げてくれます。
 この作品、「現代のおとぎ話」というのがコンセプトなんだそうですが、なるほど確かにその解りやすさやしあわせ感覚はおとぎ話のそれです。
 ストーリー重視のエッチゲームにありがちな、伏線が絡まりすぎてなにを云ってるんだかわからなくなる感覚もなければ、逆にエッチだけやって他はなんも残りませんというような感覚もありません。このあたりが、絶妙なバランスで成り立っています。
 あとはキャラクターの魅力でしょうか。流石にもともと動物ですという設定だけあって(?)、そのキャラクターたちはそれぞれ個性的です。
 この個性的な四人が、ちゃんと作品の上で書き分けられているので、作中で死んでいるキャラクターがいないのです。作中で、どの娘もみんな自分の役割と自分の居場所を持っていて、それがまったく無理がありません。
 で、それぞれ四人には個別のシナリオが用意されているのですが、この個別のシナリオに分岐しても、他のキャラクターがちゃんと生きているのもポイントです。
 こういうゲームだとありがちなのが、誰か一人のシナリオに入った途端に他のキャラが出てこなくなってしまったり、出てきても本当にオマケのように出てくる程度になってしまったりという「偏り」です。
 それまでみんなで楽しく過ごしていたのに、特定の一人とちょっと仲が深くなったとたんに他の人とまったく会わなくなったり話をしなくなったりしてしまうという、いわゆる「フラグ外キャラの排除」ですね。
 もちろん、これはゲームである以上仕方がありませんし、あえて意識することもなかったんですよ。
 でも、この作品でその印象が変わりました。特定の一人のシナリオに入っても、ちゃんと他の三人がそこにいることを感じさせてくれます。
 しかもそれがすごく自然で、物語自体に軋みがまったく生じていません。これのおかげで、繰り返し書いている「みんなでいることのしあわせ」感覚が、最後まで残りつづけるのです。
 エッチシーンは、意外かもしれませんが思ったよりは多くありません。
 その女の子とエッチできるのは一回だけですし、エッチそのものも昨今のエッチゲームとしては驚くほど普通です。陵辱もなければ失禁とかそういうあれもありません。
 そっち方面に慣れてしまっているとちょっと物足りなく感じるかもしれませんが、その「しあわせ」具合を演出するには妥当でしょう。

<CG>
 Wintersの「ごめんなさい…アタシのせいで」の原画と同じ岩崎考司さんという方の作品なんですが、個人的にはああいう陵辱系作品よりも、こういうほのぼのした感じの作風の方が合っているんじゃないかなあと思います。
 明るい感じの色使いがすごくいい雰囲気なんですよ。あったかくて。立ち絵も一枚絵も安定して魅力的です。
 あと、「シナリオ」のところでも少し書きましたが、オープニングのデモも外せません。
 これそのものが、なんだかすごくほっとするというか、見ていてそれだけでしあわせになれる出来なんですよ。これは雑誌の付録CDなんかにもついているらしいので、見られる方は是非見てみてください。このデモからして、この作品の「しあわせ」な雰囲気が伝わってくると思います。

<システム>
 アドベンチャーシステムとしてはこの上なく完成されています。スキップも高速ですし、未読テキストをスキップできる・できないを任意に選択できたり、セーブポイントも必要十分だったり、テキストの巻き戻しと巻き戻したテキストでの音声の再生も可能だったり、選んだ選択肢と選んでいない選択肢がすぐにわかったりと、まったく過不足ありません。
 凝ったことをしていないしする必要がないからこそ、完成されたシステムです。バグもわたしの環境ではまったく発生していません。文句なし。

<音楽>
 とにかく、その「しあわせ」感を伝えるオープニングの歌。この曲のノリのよさは特筆モノです。
 ヘタな歌やハズシの歌であざとく狙ったものでもなく、カッコイイ系でまとめたものでもありません。本作の雰囲気を、そのまま歌にしたらこういう感じになりましたという感じでしょうか。なんだか、つい口ずさんでしまう曲です。
 んで、声。例によって「女性のみフルボイス」ですが、主人公以外の男性キャラは一人しか出てこないのであまり影響なしでしょうか。
 それよりなにより、この女の子たちの声が魅力的すぎます。みんなキャラクターのイメージを寸分違わず演出してます。特にキャラクターの一人「雪乃」は、「あう〜」とかなんとかそういう言葉以外は喋れないという設定なんですが、これがまた見事に演技がなされてるんですよ。「そういう言葉しか喋れないけど、伝えたいことを伝えようとしている」という感じがちゃんと伝わってくるんですね。
 こういうのってともすればあざとくなってしまいがちなんですが、それもまったくありません。
 エロゲーにおいての「声の演技」のレベルは、昨今ではとみに上がってきてはいるんですが、それを鑑みてもこの作品のレベルの高さはかなりのものだと思います。

<総合>
 素晴らしい作品です。全体に満ちた「しあわせ」な雰囲気は、とにかくやっていて楽しい気分にさせてくれますし、終わった後の後味も非常によくて、よかったなあ、楽しかったなあという感覚がどこまでも残ります。
 話もわかりやすいし、みんな可愛い女の子に純粋に「カワイイなあ」と安心して云える、思えるというのは大きいです。
 この作品が、ものすごく話題になったり大人気になったりというようなことは、おそらくないでしょう。
 それは、つまんないからとかそういうことではありません。
 この作品はそういう「語り継がれる」タイプの作品ではなく、ただ作品から漂う「しあわせ」を感じることに最大の魅力があるからです。
 それは実はとても大きいんですが、なかなかこういう感覚的なところは文字にしたり言葉にしたりするのが難しいのですね。わたしが今回、この文章で「しあわせ」という曖昧な表現に終始しているのもそこに原因があります。

 この作品に関しては、難しいことは云いません。興味を持った方は是非やってみてください。この雰囲気に興味を持ったなら、絶対にその期待は裏切らないと思います。


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