FORTUNE ARTERIAL(オーガスト)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント5−9−
シナリオ:榊原拓/内田ヒロユキ/安西秀明
原画:べっかんこう
音声:フル
主題歌:有(オープニング:『扉ひらいて、ふたり未来へ』/エンディング:『ひとしずく』/挿入歌:『赤い約束』『扉ひらいて、二人未来へ(ballad of arterial)』『Pure Message』)

<シナリオ>
 転校が多い生活から開放されるため、全寮制の学園に入学した主人公。そこで出会った「吸血鬼」たちや、その周りにいる人々との物語。
 ものすごく簡単に云ってしまえばそういうことになりますが、実はそこに独特の世界観と云いますか、結構いろいろな物語が隠れているので、なかなかこれを一概に説明するのは難しい感じの話です。
 一応大まかなジャンルとしては「学園モノ」の範疇に入るのだとは思いますが、しかし単純に誰が誰を好きになって障害があって乗り越えてハッピーエンド、みたいな単純な構造にはなっていません。
 学園でのんびり楽しく生活していますというシーンがもちろんないわけではなく、それにウエイトが置かれているキャラクタのシナリオもあるのですが、全体的にはどちらかというと、「吸血鬼」であることについての謎解き(というと多少大げさですが)がメインです。
 その過程でヒロインキャラクタとの恋愛に入っていくという経過が自然な感じで書かれているので、物語の中に巧く一つ一つのシーンが溶け込んでいる印象があります。
 そういう展開のせいか、確かにものすごく物理的なボリュームはあるのですが、テキスト自体のテンポがよく、あまりストレスは感じません。このへんもまたポイントでしょう。
 しかし、この作品が巧いのは、なんと云っても物語すべての伏線を綺麗に回収しているところでしょう。  と、ここで説明のために最小限のネタバレをさせていただきます。たいしたネタバレではありませんが、どうしてもそれが嫌だ! という方はここで読むのをやめていただければと思いますので予めご了承ください、と断ったところで。
 この作品の場合、個別のキャラクタールートをすべてクリアすると、その後に「トゥルーシナリオ」が読めるようになって、これが物語の本筋になっています。
 アダルトゲームの物語においての「伏線」というのは、シナリオがキャラクタごとに分断されているため、どうしてもそのキャラクタそのシナリオ内でのみ展開しがちです。
 ちょっとわかりづらいのですが云っていることはきわめて単純なことで、要するに、あるキャラクタのシナリオ中に起きた事件はそのキャラクタのシナリオ中にすべて解決するのが基本である、ということです。
 無論、あえてそれを回収しないことによって得られる、読後感の効果を狙うシナリオ展開もありますが、それはあくまでも例外的なものと云って差し支えないでしょう。確かにその「例外」が増えているのは事実ではあるのですが、それはまた別の話です。
 この作品の場合、すべてのキャラクターの物語で語られることに意味があり、その結果に読むことができるトゥルーシナリオでその意味が明かされるという構造になっています。
 個別キャラクタのルートにおいて、エンディングを迎えても完全に解決しないところを意図的に残しておき、それをトゥルーシナリオでまとめて解決するわけです。
 ここでこの作品が巧いのは、まずその各キャラクタで明確に回収しきれなかったエピソードをあえて作っておき、そちらに目を向けさせます。これによって、「この事件はおいてけぼりだな」という印象をまず作ることができます。と、それと同時に、非常に細かい部分で、明確にされない伏線を物語の中に意図的に作っておき、それをもこのトゥルーシナリオで回収している、ということです。
 この伏線の整合性をトゥルーシナリオで見事にとっているあたりに、この物語の巧さを感じます。あちらの伏線のせいでこちらが矛盾する、という、ゲームだからパラレルワールドでいいんだという「常識」に縛られることなく、パラレルワールド内で見た「謎」すべてをきっちりと物語の中に落とし込んであります。
 そしてそれがゆえに、この物語の世界は非常に完成して見えるのです。
 本来、世界は目に見える範囲では起承転結が完結しています。否、そうでないのかもしれませんが、少なくとも毎日の生活においてはそのように錯覚しています。
 ものすごく単純なことを云えば、コップを高いところから落とせば地面に落ちて割れる、という当たり前の事象ひとつとっても、きっちりとした因果律の中で説明がつくものです。
 物語の中においての因果律の解決というのは、こういった細かい、意識しなかった部分においてもきっちりと説明をつけてしまうことなのでしょう。無論、それは破綻を生むこともありえますが、そこはこの作品、丁寧に作られていて目に見える破綻がありません。
 こういう丁寧さというのは、ある意味でこの作品のウリの一つだと思います。
 そういう意味で、トゥルーシナリオと個別のキャラクタシナリオが密接に結びついているため、なかなかこれがよかった、というのが言いづらい作品ではあります。あえて云うなら「トゥルーストーリーがよかった」ということになるのですが、それとてその前の個別シナリオがあったからこそなわけでして、そういう種別が難しい気はします。
 キャラクタの書き込み方も巧いです。確かにある種ステレオタイプな感じではあるのですが、そのわかりやすさを逆手に取っています。ステレオタイプな設定ならそのステレオタイプなところをいっぱいまで出し切る感じ、とでも云うのでしょうか。
 描写やキャラクタの動かし方が非常に丁寧で、それぞれのキャラクタが印象的な、魅力あるキャラクタになっています。しかもきちんとメインシナリオに全員が絡んでくるので、キャラクタ一人一人が「放っておかれている」感じがしないのです。これもまたひとつの丁寧さの表れでしょう。
 エッチシーンもなかなか濃厚。とってつけたような感じもさほどせず(白など、キャラクタによって多少感じることもありますが)、数も多いので満足できるレベルなのではないかと思います。
 確かに、感動して泣くような作品ではありませんし、物語の深みを楽しむ作品でもありません。素直に物語と世界観を楽しむという、そういう意味できわめて完成度の高い作品なのではないかと思います。

<CG>
 ある意味でハイレベルなところで安定しているので、ものすごく安心して見られる感じですね。この絵だからこそ買っている、という固定ファンの方も多いわけで、それも理解できる魅力があります。
 ちょっと丸っこいというかロリ体型なのでそっちの系列が苦手な人だとちょっと辛いかもしれませんが、だからと云ってそんなに極端にそういった嗜好が出ているかと云えばそうでもありません。全体的にはクセもなく、割と誰にでも馴染める絵なのではないかと思います。
 ところどころに使われるディフォルメ絵の可愛らしさや、さらに女性キャラはもちろん、男性キャラも丁寧に描かれているところもまたいいところでしょう。
 立ち絵やイベント絵などの種類はかなり豊富で、そちら方面の不満も感じることはないでしょう。どうしてもこの絵がダメ、というのならともかく、初見で抵抗がないならばハマれる絵なのではないでしょうか。

<システム>
 かなりいいです。まず演出面も非常に細かく、画面全体にかなり動きがあるので賑やかさがあります。そのせいかちょっと重いですが、それも気になるほどではないでしょう。スキップも高速ですし、セーブポイントも多く、使い勝手は悪くありません。
 また、セーブやロードのとき、オートでマウスカーソルを「はい」「いいえ」の選択ボタンへ持っていってくれるのも非常に便利。これに慣れるとほかのゲームがかったるくなってしまいます。
 さらにはキーボードでの操作もかなり優秀で、矢印キーの下で読み進めることができて、上でバックログが見られるというこの仕様も、いったん慣れるとこの上なく使いやすいです。感覚的にも「下が進む、上が戻る」というわかりやすいものなので、主にノートパソコンなどでキーボードを使ってゲームを進める人には非常にありがたいシステムです。
 ロードした時点でバックログが読める、というのも親切な機能です。多くの作品だと、セーブしていったんゲームをやめてそのデータをロードすると、セーブするより前のログは読めないのが一般的ですが、この作品はそれが可能です。
 さらにそのバックログからログが残っているところまでなら自由に戻ってやりなおすことができたりと、痒いところに手が届くシステムと云いますか、アドベンチャーゲームとしてはきわめて親切な作りになっています。
 システムについてはまったくもって文句ありません。快適に進められる作りになっているのではないかと思います。

<音楽>
 曲の数も多く、劇中曲やそれぞれの歌についてはどれも悪くない感じなんですが、音楽ではなんと云っても陽菜・かなでエンディングで流れる歌『Pure Message』(一応扱いとしては「挿入歌」になってますが)。これが好きなんですよ。久しぶりにCDが出たら欲しいなあと思えるくらいの名曲です。
 音声も悪くありません。男性キャラ含めてきっちり音声ありますし、どれもミスマッチな感じはしませんので安心してプレイできる感じですね。
 特に巧いのはかなででしょうか。かなではちょっと舌ったらずな、それでいて元気な感じがものすごくよく出ていて、音声を聴いていて楽しくなります。

<総合>
 この作品、一番特筆すべきポイントは、「わかりやすい」ことなのではないか思います。
 たとえば、キャラクターごとの物語展開ひとつとってみてもわかりやすさは明確ですし、そのキャラクターの可愛さというか、魅力みたいなところも非常にわかりやすく語られています。そしてさらには、撒いた伏線をきっちりと回収しているので、物語そのものも非常に「わかりやすい」のです。
 とくにこの物語のわかりやすさは特筆すべきものでしょう。どうしても物語というのは、ある程度進化していくとわかりにくい方向へわかりにくい方向へと向かっていきがちなのですが、この作品はそういう難しさがありません。どうしてこうなったんだろう、という疑問に対して、明確な答えを返してくれます。
 もちろんこのわかりやすさを、「底が浅い」などと非難するのは簡単なことです。ただ、もともとこの作品、おそらくそういったところは目指していません。
 絵柄の可愛さやその癖のなさなど、この作品の間口はとてつもなく広いものです。「絵が可愛いから」と云ってプレイする人もいるでしょうし、「話題作だから」という理由でやる人もいるでしょう。
 そういった人々すべてを内包して、物語を読み終えた後に「そういうことだったのか」とちゃんと納得して終えることができます。間口の広さにちゃんと応えてくれる作品なのです。
 学園で恋愛をしてエッチをしてハッピーエンド、みたいなありきたりな物語ではなく、かと云って哲学的でいろいろなことを考えさせて曖昧に終わるような難しさもない。ちょっと深い話には行くけれど、ちゃんとその深さは回収していくという、ちょうどライトノベルのような感覚で読めるものです。
 そういう意味では、見た感じの雰囲気さえ気に入れば、多くの人に安心して薦められる作品と言えますでしょう。ただし物理的なボリュームはかなりありますので、時間をとってゆっくりとやるのをおすすめいたします。

2008/03/13

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