Fair Child(ALcot)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4+7−
シナリオ:宮蔵/時乃/空下元
原画:仁村有志/蒼魚真青/コミズミコ
音声:フル
主題歌:有(オープニング:『Fair Child』/エンディング:『晴れのち曇り、時々雨』)

<シナリオ>
 話自体は、主人公と、その主人公を取り巻く少女たちの恋物語……という、云ってしまえばごくごくあたりまえな言葉で説明できてしまう物語であることは間違いありません。学園を舞台に、主人公とそのまわりの人々が恋に落ちて、でもいろいろと障害があってそれを乗り越えて……という、そういうパターンの話です。
 たとえば読んでいてわくわくするとか、そういう刺激のある作品ではありません。ですから、まずそういうものを期待してしまうと、これはちょっとがっかりくるかもしれません。
 ちょっと細かいことを説明していくと、まずこの作品、大きく「第一部」と「第二部」に分かれています。第一部ではその少女とうまくいくところまでを描き、その後に登場する第二部ではそれがやや発展した話を読むことができる、という仕組みです。
 物語的に見れば、攻略キャラクタ5人のそのパターンはおおむね決まっており、第一部である障害を乗り越えて女の子と仲良くなって、第二部でまたひとつ障害があってそれを乗り越えて……というものに集約されます。
 だからこそ、シナリオのボリュームは確かにあるのですが、しかしそのボリュームに水増し感が強く、その障害が起きることにプレイヤーが驚かなくなってしまうという致命的な欠点を抱えています。
 つまり、「どうせまたなにかトラブルが起きるんだろう」ということをプレイヤーは予め感じてしまい、またその想像を超える以上の動きがシナリオの中に存在しないため、どうしても感覚的に単調なものになってしまうわけです。
 これはキャラクタごとにシナリオを持つ作品の場合、どうしても避けられない事象ではあるのですが、しかしこの作品の場合それがやや顕著なきらいがあります。物語がある程度のパターンに集約されるのが仕方がないとはいえ、そのパターンにすべてのキャラクタを押し込めてしまうのは、ちょっとどうかなあと思わないではいられません。
 そういうことを予め考慮した上での話であれば、作品自体は普通に「いい話」です。云ってしまえばそれ以上ではないところがないのですが、しかし話自体に悪いところがあるわけではありません。上で云っているのは、その「普通すぎる」のがどうかという話なわけですから。
 確かにある意味でアダルトゲームのアダルトゲームらしさというか、ステレオタイプなアダルトゲーム的な物語展開ではあります。問題はそういうのを許容できるかどうか、でしょう。あまり過剰に物語そのものに感動を求める向きにはちょっと向いてないかも、というそういう話です。
 尤も、話の流れは確かに特別見るべきところがあるわけではないのですが、そもそもの話自体は「普通にいい話」であることは上にも書いたとおりです。個々の話のレベルで見れば、持ち上げるところはしっかり持ち上げていますし、落とすとことはきっちり落としてあります。
 ですから、物語的になにか不満があるとかそういうことではありません。起承転結はしっかり抑えられていますし、キャラクター同士の機微とか、事象ごとの因果関係とか、そういうところもまたしっかりと作りこんであります。
 なんだかプレイヤーを置いていったままどこまでも突き進み、最後までいってもなんだかよくわかりませんでしたというタイプの話ではありません。そういう意味では、非常によくまとまった「いい話」であることに間違いはありません、とそういうことです。
 ただ、問題があるのだとすれば、それがあまりにも普通の「いい話」であったこと……つまり、絶対的に「深み」が足りないのだと思います。
 事件が起きて解決するというそのスパンがあまりにも短く、かつ単調なため、どうしてもそこに深さを見出せないまま物語が終わってしまいます。
 かと云ってボリュームがないわけではなく、キャラクタによって差はありますが、基本的にシナリオのボリュームは相当にあるわけですから、相対的にその深みが感じられなくなってしまうのです。
 キャラクターレベルで見ていけば、こころの話あたりはちょっと結末を急ぎすぎている感がないわけではなく、なんとなく腑に落ちない部分もあったりしますが、そのほかのキャラクターは概ね納得のいく話の落とし方にまとまっています。朔夜の話はその中でもよく出来ていて、最後のあたりでは不覚にも思わずぐっときてしまいました。
 キャラクターはさすがに個性豊かに書き分けられています。メインの攻略キャラクター5人のほか、さらにサブキャラクターとして何人かが登場する展開ですが、これらサブキャラクターを含めても非常に個性的で、それぞれにキャラクターが立っているのでこのあたりは悪くありません。誰かキャラクター一人に思い入れがあるならば、この作品はそういう方面での期待を裏切らないのではないかと思います。
 アダルトシーンもこの手の作品にしては充実しています。絵がない、文章とセリフだけのアダルトシーンも入れると、主人公と女の子が結ばれてから割とのべつエッチをしているような展開になっていきます。
 これをアダルトゲームだからよしと考えるか、はたまたシナリオ展開上うっとおしく思うかは個々人の好き嫌いに関わってくるところでしょうからまあとりあえずいいとして、エッチシーンが入ってくる箇所がやや不自然なところが何箇所かあって、それがちょっと気になりました。
 アダルトシーンのボリュームを増やすためには仕方がないのでしょうけれど、やりすぎるとシナリオのテンポがどうしても悪くなってしまうので、これはまあ一長一短といったところでしょうか。
 ただし、基本的にフェラシーンが多い気がするのはシナリオライターさんの趣味なのかもしれませんが、これがなんだか音声コミで妙にエロいので、こういうゲームならではの趣を求めるのならば、結構期待には応えてくれるのではないかと思います。

<CG>
 パステル調の色合いがよく似合う可愛らしい絵です。クセがなく、誰にでもとっつきやすい絵柄なのではないでしょうか。
 枚数的にも立ち絵・一枚絵ともに豊富で、パッケージなどのイラストにぴんときたらこれだけで買っても損はないでしょう。イベントシーンはもちろん、上述のようにアダルトシーンもかなり豊富にありますので、イラストが好きな人なら後悔はしません。この可愛らしさがこの作品一番の魅力と云ってもある種過言ではないでしょう。まさに「かわいいは正義」というやつです。特にこころは立ち絵・一枚絵ともに力が入ってる感じですね。
 さらにこの作品、立ちキャラの演出が非常に巧くて、キャラクタが生き生きと動いているような印象を与えてきます。このへんの演出もまた見所のひとつかもしれません。時々投身の低い、いわゆる「ディフォルメ絵」も出てきますが、これもワンポイントとして効いています。
 絵に関しては全体的にレベルが高く、これといった不満はありません。

<システム>
 いわゆる普通のエロゲーアドベンチャーシステムではあるのですが、使い勝手は悪くありませんし、バグもありません。セーブポイントも豊富ですしスキップも高速、演出のオンオフもできます。
 演出がかなり派手なせいかちょっと重いような気がしますが、それも気になるほどではないでしょう。演出が重いからと「描画速度」を「瞬間」にしたままゲームを進めると、エンディングのところでモノローグが飛ばされてしまうので注意が必要です。
 ゲームシステムとしては、基本的に狙った女の子をマップ上で追いかけていけばその子のシナリオが進行していくシステムではあるのですが、選択肢が多く、これが結構シビアなようで、なぜかバッドエンドに突入してしまうことも何度かありました。選択肢があからさまにこれは間違い、というところでバッドエンド確定するのではなく、わりと微妙な選択肢を選ばされるので、バッドエンドに一度当たると「ハマる」可能性はあります。
 CGモードや音楽モード、シーン回想などは「ゲーム中にある条件を満たすと見られる」ようになるというALcot伝統の(?)システムです。当然、キャラクタをクリアしても見られない場合もありますが、そんなに難しい「条件」ではないのでこれはまあよいでしょう。
 あと、細かいところですが、キャラクタをクリアしていくごとにオープニングの音楽がどんどん豪華になっていくという、これもある種「伝統」のシステムですが、今回もしっかり健在。クリアするのが楽しくなります。
 こういう細かい演出は、なんだかいいなあと。

<音楽>
 悪くないです。曲数も多く、劇中曲も『Innocent Kitty』とか落ち着いた感じのいい曲が揃っているんですが、特に歌物のエンディング曲『晴れのち曇り、時々雨』が名曲。しんみりした曲なんですが、ストリングスが綺麗で思わず聞き惚れてしまいます。エンディングでこれが流れてくると、なんだかすごく落ち着くような、物語が一段落ついた感じがするというそういう曲ですね。
 音声も全体的にハマっています。さすがに縁起のレベルも高く、朔夜なんかは結構演じるのも難しいキャラクタなのではないかという気がしますが、これがびっくりするほどハマっていて逆に驚きました。
 あとは声とキャラクタがハマっていたなあという印象が強いのは美琴でしょうか。この人も演じるのが難しそうな感じなのですが、うまくキャラクタの印象や仕草と声や演技がマッチしていて云うことはありません。
 男性含めて、声のレベルは高めです。

<総合>
 この作品、なんと云うか非常に「惜しい」作品です。「シナリオ」の項目にも書いたとおり、もう少しの深みがあれば、もしかしたら名作になりえたのではないかと思うのですよ。
 それを、キャラクタをある種のパターンに押し込め、小粒でまとめてしまったというのが、この作品を「普通の作品」というところに落ち着かせてしまったのではないかと思います。
 さしあたり、キャラクタに思い入れられるのなら買っても損はしません。そういう意味での作りこみは非常にしっかりしています。キャラゲーと云うほどにボリュームと物語性がないわけでもありませんし、プレイ後の読後感もよいので、作品としてはしっかりしているのは間違いないわけです。
 ただ、きっとこれをもう少し物語性のほうに振ることもきっとできたわけで、そこから鑑みるにどうしても惜しさを感じずにはいられないのです。

2008/01/15

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