祝福のカンパネラ(ういんどみるOasis)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント5+9−
シナリオ:サイトウケンジ/ちゃとら/セロリ/代瀬涼/木之本みけ/がのす
原画:こ〜ちゃ
音声:フル
主題歌:有(オープニング:『祝福のカンパネラ』/エンディング:『*twinkle*twinkle*』『White Crystal』『A ray of sunshine!!』『銀月 〜La lune de l'argent〜』『たからもの』)

<シナリオ>
 貿易都市エルタリアを舞台に、魔法のアイテムの技師である主人公・レスターが、周りの仲間たちと繰り広げる冒険活劇。ものすごく大雑把に云えばそんな感じです。キャラクタのストーリーごとによって話が大きく違ってくるので、なかなかあらすじを説明するのが難しくはあるのですが。
 基本ジャンルとしては、剣と魔法のファンタジーものです。と云ってもRPGではなく、中身自体はスタンダードなアドベンチャーです。
 この「剣と魔法のファンタジー」というやつは、ドラクエやFFのような古式ゆかしいRPGならともかく、アダルトゲームの世界ではひとつの鬼門ともなっているジャンルです。
 これは、世界観が現代日本と異なることで、現代日本における常識的な舞台が使えなくなる(シナリオ構成的な意味合いと、プレイヤの想像力のリンクが追いつかないという意味合いで)とか、キャラクタの書き込みを世界観の説明に取られてしまうとか、どうしても馴染みのない独自の専門用語を並べる必要があるとかいろいろ原因はあるのですが、一番大きいのは、キャラクタの名前に馴染みがないため、どうしても感情移入がしづらくなってしまうことなのだと思います。
 当然のことですが、ファンタジーものに馴染みの深いユーザにとっては、これを問題と感じることはありませんでしょう。ですが、ジャンルとして学園モノが大半を占めるアダルトゲームの中に於いて、やはりどうしてもこれが特殊なのもまた仕方がないことだと思います。
 で、これはジャンルそのものが抱える問題なので、この作品においてもそれがすべて綺麗に解決しているとかそういうことではありません。
 なのですが、この作品では、そういうとっつきにくさはあまり感じません。
 作品の中では、アーティファクトだのアニマアメジスタだのオートマタだのエールだのという「専門用語」が次々と語られていて、時折置いていかれている感じがしないではないのですが、そういった専門用語を我々の生活に近しいもので説明することで、それらを比較的身近に感じさせることに成功しています。
 つまり、この手の作品が陥りがちな、「このなんとかというものは、なんだかよくわからないけどすごいもので動いているなんだかよくわからないすごいもので、なんだかよくわからないすごい効果があります」という、結局なにがなにやらさっぱりわかりませんというぼやかした説明ではなく、「ああ、これは現代世界においてはこういうものなんだな」という置き換えが頭の中で自然と行われるようになっているのです。
 世界観においても、鉄道が普通に走っていたりとか、ギリギリのところで馴染みのある世界になっていたりするので、それほど「特殊」という感じを漂わせていないのはひとつの特徴であるとも云えますでしょう。
 キャラクタ名や地名などの固有名詞に関してはそういうわけにもいきませんが、地名に関しては極力名前を増やさないことでそれを解決できています。
 いわゆるファンタジーRPGでは、「次はどこそれの村へ行け」なんて云われて、次々と出てくる地名を覚えておかなければならず、ある程度物語が進んだところで初期の頃に登場した地名を出されてどこだそれみたいなことになったりもしますが、この作品では基本的にエルタリアという町の中でメインの事件が起こるので、そういうややこしさはあまりありません。初期の頃の「クエスト」(システム項目にて後述)だけは頻繁に町から外に出ますが、それもさほど複雑なわけでもありません。
 残るは人物名なのですが、これも基本的には同じことで、メインのキャラクタ陣から極端に人数を増やすことをせず、最初から最後までほぼ固まったキャラクタたちによって物語が進むため、読み進めていくうちに顔と名前は一致するようになります。
 この作品、物語のコンセプトそのものは非常にわかりやすく、基本的には「仲間って大切だ」という『少年ジャンプ』的なものなのだなと思うわけですが、そういう王道のストーリーをうまく使っています。
 何かものすごい仕掛けがあるとかそういう類のものではなく、どちらかと云えば直球で来る感じで、それがゆえにキャラクタがわかりやすいものになっているのです。
 一通り終わらせてみても、物語で泣かせるとかものすごいファンタジー世界を創り出すとか、そういうことがあるわけではありません。もちろん、だからと云ってこれが蔑ろになっているわけではありませんが、あくまでもそこは本線ではないと思います。
 なので、物語そのものに過剰な期待をしてこの作品に触れると、おそらく結果として後悔することになるでしょう。それは別にこの作品の物語がつまらんとかそういう話ではなく、おそらくそういうことを目的として話自体が作られていないからに過ぎません。
 じゃあこの作品の物語ってのは何だ、という話になるわけで、ここでようやく先の話とも関連してくるのですが、基本的にこの作品の物語は、キャラクタを引き立てるための手段なのだと思うのです。
 先にも書いたとおり、キャラクタの名前が日常生活において馴染みの薄いものである以上、日本人名のキャラクタよりも感情移入はしづらいものになります。これはこういう世界観で物語を展開する以上、どうしても避けられない事象です。
 それならば、それを効率よく、さらに魅力的に解決するにはどうすればよいかという話になってくるわけで、そこでこの作品がとった手段は、「物語の中でキャラクタを徹底的に描き出すこと」だったのではないかと思うのです。
 つまるところ、この作品はいわゆる「キャラゲー」であり、その物語や世界観、ひいては作品の雰囲気など、そのすべてを以ってしてキャラクタを魅力的に彩るものなのです。
 そう考えると、この作品は俄然魅力的になってきます。
 とにかく、全編に渡ってキャラクタの仕草や台詞回し、行動などすべての要素で、そのキャラクタをいっぱいいっぱいまで表現しようとしているのです。
 たとえば、単純に物語の構成として考えれば、シリアスなシーンでギャグっぽい会話を入れたりとか、そういう類の見せ方というのは、物語のテンポを壊す逆効果になってしまうことは多々あります。
 ですが、キャラクタを見せるという意味においては、それはひとつの魅力になりえます。
 もちろん、物語の根幹までを壊さないという前提条件がついての話ですが、そこにキャラクタ性を織り込み、シリアスさの中でキャラクタが自己主張させることで、一本の物語の中からキャラクタが浮き上がってくるのです。
 中でも、サブキャラクタであるところのサルサとリトスが非常に巧い役回りを演じており、ストーリーの閉塞感を感じさせません。
 この二人のキャラクタは、自身の魅力を高いものにしているのは云うまでもないことですが、二人に絡まれる役割としての他キャラクタたちの魅力も結果として持ち上げられています。
 そういった要素が絡み合った上で、それぞれメインキャラ一人ずつに個別のシナリオが用意されているわけですが、このへんは結構あっさりしていると云いますか、どこまでも人間関係を深く描くとか、そういう類のものではありません。
 主人公と恋愛関係になるにあたってそれぞれの葛藤はありますが、それもそこまで深いところまで突っ込んでいるわけではないです。
 たとえばカリーナの物語では、カリーナ以外のメインキャラクタは非常に達観した視線と云いますか、世界のすべてを知った上での話をしてきます。主人公とカリーナだけが葛藤の中にいる、という展開が描かれるわけです。
 ですが、これがアニエスのシナリオになると、あれだけ達観した視線で世界を見ていたはずのアニエスが葛藤の中に入り、あれだけ葛藤していたカリーナがものすごく達観した視線で主人公にアドバイスをしてきたりします。
 いずれの場合も、その「達観した」キャラクタたちのアドバイスを中心に、主人公と対象キャラクタの恋愛模様は解決していくわけです。ちなみに蛇足ながら、そこから先にも物語は続き、その先にあるテーマを消化してはじめて物語が完結するつくりなので、「結ばれて終わり」ではありません。
 つまるところ、片方のシナリオでは達観した視線を持っていたキャラクタが、片方のシナリオでは途端にオクテになったりする現象が発生するわけで、まあ、恋愛なんてそんなもんですよ、という云い方もできなくはありませんが、それでも好いた好かれたの葛藤や心理状況が厳密かつ克明に描かれているわけではありません。あくまでも個別のシナリオにおいて、それぞれのキャラクターの性格付けは、「そういうもの」という前提の上で話が進んでいきます。
 そういう意味合いでのちぐはぐさは確かにないとは云いませんし、厳密に物語の上にあるキャラクタ性だけを語るのであれば、キャラクタの性格付けの軸がブレてしまっているというのは決していいことではありません。
 ですが、これも「キャラクタを描くための手法である」と考えれば、これはこれで納得のいくものではあります。
 これはつまり、キャラクタ個別のシナリオというのは、あくまでもそのキャラクタの魅力を描き出すために存在しているものであるという考え方です。
 その場合、シナリオで描かれるメインキャラクタ以外のキャラクタは、そのメインキャラクタの魅力を引き出すためのサポート役であって、極力根底にあるそれぞれのキャラクタ性を潰さずにメインキャラクタを引き立て役に回るわけです。
 このへんの、キャラクタの魅力を引き出す方法が巧いんですよね、この作品は。一番の見所はそこになるんじゃないかなと思います。そして、それを素直に楽しむことができれば、この作品の完成度の高さを感じることができるでしょう。
 この作品、全部で三章立ての構成になっており、おおよその展開としては、序章では共通となるストーリーパートが語られ、第一章で進行がある程度のキャラクタにまで絞られ、第二章前半でキャラクタが一人に絞られて、後半でそのキャラクタとのエピソードが語られ、終章でそのキャラクタの物語の根幹が語られる展開になります。キャラクタによって若干の誤差はありますが。
 このうち、二周目以降も共通の部分、つまりスキップで飛ばせる部分は主に第一章の中盤までで、あとはそれぞれ個別のシナリオに入るため、じっくりと読んでいく必要があります。
 そういう意味でもボリュームはかなりあって、正直なことを云うと、キャラクタによっては中盤で動きが乏しくなり、やや中だるみすることもあります。
 これが、終章で物語が盛り上がってくると、そういう感じはなくなってきて、先にも書いたような非常にわかりやすいストーリー展開になるため、退屈さは感じなくなるのですが。
 ただ、それでも物理的なボリュームがあるのと、ストーリー的な緩急はさほどではないので、そのへんは注意が必要でしょうか。
 ただ、世界観を描き出すにあたり、これだけのボリュームが必要になるというのもわからないではありませんので、これはやむなしといったところでしょう。そして、その目的はほぼ達成されていますので、結果としてはこれが正解だということになるのだと思います。
 アダルトシーンについては、作中では一キャラクタにつき二回、シナリオクリア後に出てくるおまけシナリオで一回の合計三回。数はそんなに多くはありませんが、内容面ではこの手の作品にしては濃い目ではあります。ただ、破瓜の際の血液描写とかもあるので、苦手な人は苦手なのかなという気はしますが。

<CG>
 ふわっとした感じの、割合好き嫌いのしづらい絵なのではないかと思います。色使いも綺麗で、なんと云いますかハマりやすい感じ。普通のゲームだと蔑ろにされがちな後ろ向きの立ち絵なんかも用意されていたりと丁寧さを感じます。
 イベントCGは格別に多いというわけではなく、寧ろ全体的なボリュームから考えれば若干少ないかなと思わないではありません。特に、物語中盤ではほとんどイベントCGが出てこないので、余計にそれを感じるのだと思います。
 ただ、それを補うように立ち絵が表情豊かで、さらによく演技をしてくれるのでさほど退屈感はありません。ギャグっぽい表情なんかがいいアクセントになっている気がします。
 ただ、そのギャグっぽい立ち絵についてちょっと気になったのは、特にカリーナのところで縮尺が狂うことがあるところ。ギャグ絵と普通の立ち絵が混在するところで、ギャグ絵の頭が大きく描かれているせいか、重ね合わせのところで遠近感が狂った感じになってしまいます。
 尤も、それほど大問題かと云われれば全然そんなことはないわけですけども。絵の可愛らしさや丁寧さという点では文句はありませんので、絵の雰囲気が好きな人なら損はしないかと思います。

<システム>
 普通のアドベンチャーシステムなのですが、画面全体を使っての演出が細かく行われているので、見ているとそれだけでなんだか楽しくなってきます。
 セーブ可能数はあまり多くはありませんが、選択肢そのものがさほど多いわけではありませんので、不自由はしません。
 また、通常のスキップに加え、「次の選択肢まで行く」というボタンがあり、これを押すと一気に次の選択肢まで飛べる機能がついているのですが、プレイ時間が長い作品だけにこれはありがたいです。ただ、未読地点になると止まってくれるのはありがたいものの、幕間でも止まってしまうので、これも飛ばしてくれるとさらに嬉しくはあったのですが。
 この「次の選択肢まで行く」ボタンで高速スキップを行っても、バックログにはそこまでのテキストを「読んだもの」として記憶されているので、その選択肢が何を選択させようとしているのかをバックログで確認することができます。地味ですがこれはありがたい機能です。
 そのバックログ機能も優秀で、一度ゲームをやめてロードからはじめてもちゃんとそれより以前の文章が保存されているのは嬉しいところ。さらにこのバックログ、記憶されている量が多く、もしかしてゲームスタート地点まで遡れるんじゃないかと思って試してみたのですが、途中で挫折してしまいました。それくらい多いです。
 この作品、ファンタジー世界を舞台にした作品らしく、「クエストを選ぶ」とか「戦闘」なんてのも用意されています。
 と云っても、ドラクエとかFFのような本格的なものではなく、「クエスト選択」はそれぞれに発生するイベントを選べるくらいの感覚で、それほど深い意味があるわけではなさそうです。遊び要素ですね。
 戦闘も、やはりRPGのような「20のダメージを与えた! 呪文を使った!」みたいなものではなく、行動を選択していくだけのものです。選択肢を間違えるとゲームオーバーになることもありますが、「コンティニュー」画面がすぐに出てきますので、これを選べば頭から戦闘をやり直すことができます。
 これだと総当りしなきゃならんのかと面倒くさい感じがしますが、コンティニュー後や二回目プレイ時など、一度経験した戦闘では「オート」を選ぶことができ、これを選べば自動的に正しい選択肢だけしか押せなくなりますので、ハマってしまうことはないでしょう。
 そういう意味では、本当に雰囲気作りの遊び要素でしかない、ということではあるんですが、ワンポイントとしては面白い、という感じでしょうか。

<音楽>
 劇中曲も悪くないのですが、印象的なのはエンディングの歌です。それぞれのキャラクタによって、「キャラソン」という形で先行リリースされていた曲がかかるのですが、これがね、どれもすごくいいんですよ。思わずCD買っちゃいましたさ。
 歌詞を聴いてみると、ちゃんとそれぞれのキャラクタに合わせた詩になっているのも魅力的なのですが、単純に曲としてすごく耳障りがいいんですね。
 その中でも個人的には、ミネットの『*twinkle*twinkle*』がお気に入りです。可愛らしさの溢れた歌詞とメロディに、実にほわっとした気分にさせてくれます。
 声はもう云うことないです。どのキャラクタも巧いことこの上ない。なんかこう、地上派アニメに出ているような有名な方が出ている気がしますが、それは気にしちゃいけないんでしょう。
 ミネットやサルサ、リトスなんてすごく難しいキャラクタなような気がしますが、不自然さはまったくありません。

<総合>
 シナリオの項目ではあんな風に書いてはいるものの、この作品のシナリオそのものが薄いというわけじゃないんですよ。
 確かにテーマそのものは使い古されたものではありますが、じゃあそれがどうでもいいかと云えば決してそんなことはなく、スタンダードであるが故にわかりやすく感動的でもあるわけです。実際、カリーナやアニエスの話では、結構ぐっとくるところもあったりして悪くありません。
 ただ、それにも増してキャラクタの魅力が強いのです。
 シナリオの上でのキャラ付けがひとつひとつ細部に渡って巧いので、キャラクタに対して思い入れを抱きつつ、世界観を楽しむことができる仕掛けができています。
 ファンタジーものというのは、どうしても世界観を作りづらいというのは上にも書いたとおりですが、うまくやれば新たな世界観にプレイヤを引き込むことができます。
 それには色々な手法があって、世界観を外堀から埋めていく方法というのもあるわけですが、シナリオの項目でも書いたとおり、この作品では「キャラクタを徹底的に書き込む」ことでそれを成し遂げています。
 もちろん、物語的にものすごく感動したとかすごい仕掛けがあるとかそういう方面での作品も面白いわけですけど、その中にはこういう、「キャラクタの魅力」で突き抜けている作品があってもいいと思うのです。
 この『祝福のカンパネラ』は、そういう意味合いで、きわめてハイレベルに完成された作品なのは間違いありません。もちろんそれはシナリオ上でのものだけではなく、絵や音楽、声などすべてのものによって作られる雰囲気です。
 剣と魔法のファンタジーと云っても、ドラクエやFFのような、誰かを倒す倒さないと云った戦闘を中心に回る感じではなく、むしろどこかのんびりした空気さえ漂います。これもまた、キャラクタたちの普段の何気ない生活を描き出すのに一役買っており、雰囲気作りの巧さを感じさせてくれます。
 そういったコンセプトの意味でも、物語的にもわかりやすい作品ですから、割とどんな人でも気負わずに素直に楽しめるのではないかと思います。

2009/04/02

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