僕と、僕らの夏(Light)
項目 | シナリオ | 絵 | システム | 音楽 | 総合 |
---|
ポイント | 3− | 4+ | 3+ | 5+ | 7 |
---|
シナリオ:早狩武志
原画:笛
音声:有
主題歌:(オープニング・エンディング:『僕と、僕らの夏』)
|
-あっさり味は魅力になるか-
<シナリオ>
かつて訪れた町がダムの底へ沈んでしまうことになり、やってきた町にとっての最後の夏。これをきっかけに久しぶりに主人公は町を訪れて……という話です。もちろんラブストーリーではあるのですが、それ以上になんと云うか青春ストーリーという感じですね、これは。まあまた「青春」なんてのは定義しにくい言葉なんで、別にそのへんどちらでもいいっちゃいいんですけども。
「ダムの底に沈んだ村」というテーマは、私事で恐縮ですが以前にまったく同じ題材で同人ゲームのシナリオを書いていたことがありまして、テーマとしては非常に使い甲斐のあるものではあります。「卒業」とか「引越し」とかならば、もとの場所へ戻れば卒業した学校だったり引っ越す前の町だったりがそこにあるわけですが、「町が沈む」ということから生まれる「帰るべき場所の喪失」みたいなものですね、これがテーマとして面白いなと思うのですよ。事実、この作品でも、序盤のあたりではそういうタームが割と強調されています。
ところが、実際にシナリオが進んでみると、これが実に薄味なのですね。いつのまにか、「卒業」にそっくりそのまま置き換えても何ら問題の無いような話になってしまっているのです。特にメインヒロインである貴理はそのへんが顕著で、「ダム工事責任者の娘」であるという設定ですね、こちらがどうも消化不良気味に終わってしまっています。結局、それでなんだったのよ、という物足りなさは残らないではありませんでした。主人公がいきなり雨の中追っかけていってえっちをしてみたりするのもなんだか唐突ですし、なんかどうもなあ、という……平たく云えば後を引きづらいというか、印象に残りづらい話になっている感覚はどうしても否めません。
ただ、そういうことを考えなければ結構ハマれる話であることは間違いないです。キャラクターの設定が巧いこともあるのかもしれませんが、いわゆる恋愛をテーマにした青春モノとしての出来は結構よいのですよ。有夏のシナリオなんかはそのへん顕著で、ただ「好きだからくっつきました。めでたしめでたし」という恋愛物語のオキテに、「友達」という微妙な感覚が結構巧くミックスされています。いっしょに遊んでいた友達に恋人が出来たりして付き合いが悪くなってきたりすると、なんかちょっと寂しいような気持ちって覚えるじゃないですか。ああいう感覚ですね。もっとも、有夏の場合はそれがものすごく直接的なのでちと怖くはあるんですが、まあそれはそれでしょう。
そういうのをすべてひっくるめて、この作品、どちらかと言えば「そういう関係を楽しめる」人に向けて発信されているような気がします。残念ながら雰囲気から来るような「泣き」要素と云うのはちょっと希薄なのでどうしても薄味な印象を受けますが、そういう風に考えればそれもまあ納得が出来るというものではありましょう。
ただ、舞台の設定をもう少し生かしてもよかったかな、というのはやっぱり惜しいなと思います。「田舎」という雰囲気は絶妙に伝わってくるだけに、余計にですね。
<CG>
アニメのようなかちかちっとしたものではなく、境界のぼんやりした水彩タイプの非常に綺麗な絵です。キャラクターや一枚絵などすべてこのタッチで描かれており、のどかな田舎の雰囲気を見事に作り上げていると云えますでしょう。立ち絵に若干癖がないわけではないのですが、一枚絵の美しさについてはこれはもう特筆モノですね。全体を通して淡い色調が、なんだかほっと落ち着かせてくれます。
<システム>
Lightのシステムとしてはおなじみのシステムですね。スキップも早く、インターフェイスもシンプルながら必要にして十分な操作はでき、特に目立つ点があるわけではない変わりにアドベンチャーゲームのシステムとして非常に使いやすいものになっていると思います。これといったバグもありませんし。まあ、セーブポイントが少しばかり少なかったり、選択肢まで行ってしまうとセーブが出来なかったり、強制オートモード時はスキップが遅かったりと微妙なところで不便だったりもするのですが。
ついでに一番わけがわからないのは、「名前変更」欄があるのに、メニュー画面で実際に変更してもゲームの中では一切反映されないという、なんじゃそりゃ以外のナニモノでもない仕様。まあ、わたしを含めて名前をディフォルトのままでやる人にとっては一切影響は無いんですけども。
<音楽>
ある意味この作品の真髄。これはほんとに素晴らしいです。透き通るような声が印象的な歌もいいのですが、やっぱりBGMですね。スタッフは田舎ゲーというものの音楽をものすごく理解しているなあ、という印象。それだけで、緑豊な田舎町がちゃんと想像できるのですよ。どちらかというとクラシックのような雰囲気がメインで、そう云う意味では賑やかになりがちな最近のアダルトゲームのBGMとちょっと雰囲気を異にします(もちろんそういう系列の曲もあるのですが)。でもこの静かさとか、どことなく漂う民族音楽っぽい雰囲気とかが、見事に田舎町での景色を作り手しているのです。「夏の始まり」とか「古き良き楽しみ」のような、日常のシーンでよくかかる系列の曲が本当に名曲。特にお気に入りは「かしまし娘達」かな。ある意味、この作品らしさが一番出ている曲なんじゃないかと思います。
あと声。声についてもこれはもう違和感無しですね。貴理あたりは特に見事にハマってる感じです。
<総合>
「悪くない」という感想です。あんまり過剰に期待するとちょっと肩透かしを食らうというのがないわけではないのですが、そうでなければこれは普通に楽しめるのではないかなと。ただ、絵とか音楽とか、そういう演出面を含めて全体的に「田舎」の雰囲気はものすごく絶妙に表現されていると思うので、田舎ゲーが好きならやってみる価値はありますでしょう。そういう人は、特に音楽に聞き惚れてください。間違いなく気に入ると思いますので。
2003/7/25
戻る