雨に歌う譚詩曲(EMU)
項目 | シナリオ | 絵 | システム | 音楽 | 総合 |
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ポイント | 4− | 4 | 3− | 3 | 7 |
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シナリオ:門司
原画:甲斐
音声:有
主題歌:有(オープニング:『雨に歌う譚詩曲』)
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<シナリオ>
心に傷を負った女の子3人が、同居している精神科医に連れられて主人公の家にやってきて過ごすドタバタコメディ。大雑把に云ってしまえばこんなところです。女の子たちはもちろん、主人公を含めてそれぞれ抱えているものが重いので、話そのものはどうしても結構シリアスな話になってしまいます。
なのですが、この作品ではあまりそのシリアスさを感じさせません。
この作品、大きく第一部・第二部の二つに分かれていて、第一部の選択肢によって決定された女の子個別のシナリオが第二部で語られるという構成をとっているのですが、特にこの前半部である第一部がギャグの嵐。第二部はどうしてもなかなかそういうネタの入り込む余地が少ないものになってしまいますが、第一部のはっちゃけぶりというのはものすごいものがあります。
これがまた滑ってるとお寒いことこの上ないんですが、結構ちゃんと笑えるんですねこれが。
特に「可愛い顔をして非常に毒っぽい言葉をぽんぽん吐く」という設定の悠と「謎の大道芸人」今日子の設定が生きていて、この濃い設定の二人との会話というのがとにかく楽しめるのです。なにかを知らなきゃ笑えないというパロディの類ではなくて、純粋に言葉のやり取りだけで笑わせてくれるのはなかなか見事なものです。
で、このギャグの出来があまりに良いので、どうしてもこの作品の評価はそちらにいってしまいがちなところはあると思うのですが、あながちそれだけでもありません。根幹にあるシナリオそのものも予想以上にしっかりしています。
まあ、確かにキャラクターごとの差があって、たとえば美佳なんかはその二重三重に張り巡らされた伏線になるほどと思いはするものの、解決へのルートや状況がそれまでの状況から考えればあまりにも軽く急展開過ぎるという印象は否めません。
なのですが、メインのキャラであるところの残り二人に関しては、それぞれがちゃんと分岐した中できっちりと物語が収束しています。この二人のシナリオに関しては、本当に設定のシビアさがきっちりと結末に生きている感じですね。
特にみつきシナリオの結末は物語中でも重く、これを果たしてエロゲーの結末に持ってくることが正解なのかどうかという疑問は若干ないではありませんが、それだけに強烈に印象に残るものになりましょう。そしてそれだからこそ、登場する女の子たちを本当にいとおしく思うことができるのです。
読みやすいテンポのテキストや、ギャグとシリアスのシナリオのバランスの見事さ、さらには適度なボリュームで、物語そのものに熱中できる作品だと云えると思います。
さらにこの作品、特徴的なのは語り口のポジションです。基本的には主人公=「俺」で語られる第一人称視点なのですが、これが必要に応じてふと第三人称視点に切り替わったりしますし、はたまた第一人称視点でありながら、限りなく第三人称視点に近い切り口で物語が語られることもあります。これはともすれば視点の揺れを巻き起こし、ともすれば物語の世界観を破壊しかねません。
なのですが、この作品においてこの手法は非常に巧く生きています。
これまでの作品では、主人公はあくまでも人格を持たない空っぽの入れ物であり、それが心に傷を負った女の子にアプローチして優しく包み込んであげるのだというものが主でした。
ですがこの作品では、主人公自身も過去に大きな傷を負い、それが今回同居することになった三人に対して影響を与えます。なので、もちろん主人公という視点を動かすことは出来ませんが、「心の中の傷を見つめている主人公」という特殊な視点からの語りが必要になるわけです。
これは、語るのは「俺」でありながらそれを客観的に見ている神の視点でもある必要がありますから、本来であればこれは物語ではあってはならないタブーなのですが、この作品はそれを逆に巧く利用している印象を受けました。この視点の衝突から来るちぐはぐさを、うまく表現として生かしているのです。
ただ、それだけに欠点もありまして、まずテキスト面から云えば、途中途中で急激に思わせぶりな、プレーヤーを置いていってしまいそうな抽象的な言葉があまりに多く挿入されることです。
確かにちゃんと一つ一つの言葉には意味があるわけですが、これがあまりに散逸して物語のそこここに存在しているため、物語そのものの流れを掴むのを阻害してしまうのです。
物語が持つ抽象的意義の表現にはなっているので、これはまあ一長一短ではあるのですが、この抽象的タームの理解で物語からはじき出されたような感覚があるのもまた事実です。感覚的なタームよりも抽象的・原理的なタームが優先されてしまうというのは、先の視点の衝突から生まれてくる大きな弊害であると云えましょう。
そして物語の面から云えば、あまりにサブキャラクターが生きていないことに対する勿体無さというのがありますでしょうか。
千夏や今日子に関してはポジション的に特殊なところにあるからまだいいのですが、主人公の恋人であるという設定の七菜子が、ただバッドエンドキャラに成り下がってしまっているというのはちょっと勿体無いです。
彼女自体も主人公に対してかなり重いものを抱え込んでいて、それを考えればもっと書き込むこともできたと思うのですが、実際にはこれが本当になんてことのない脇役。サブキャラなんだからこの程度でよかろうというのもまああるのでしょうが、これで世界そのものが軽くなってしまっているのでは仕方がありません。
キャラクター個別シナリオに入る以前の第一部が基本的にはどのキャラでも共通の展開なので、キャラクターの噛み合わせによってはいっそうそのちぐはぐさが浮き彫りになってきてしまいます。後半がきっちりとまとまっているだけに、惜しいのはこのあたりでしょうか。
エッチシーンはまあボリューム的には普通かちょっと下くらい。最後にまとめて処理している感じなのがちょっとアレですが、それ自体もテキスト含めて実に普通でクセはありません。
<CG>
結構好き嫌いの激しい絵だとは思いますが、個人的には好き。背景なんかも丁寧ですし、ギャグっぽい絵や立ち絵も総じて崩れたところがない安定した絵です。枚数も結構多く、なかなか豪華に使われているのでこちら方面は満足。日付が変わるごとにアイキャッチのようなものが入ってくるのですがこの絵も一枚絵としては綺麗です。主として過去の回想シーンにおいて、時々色鉛筆のような淡い塗りの絵が効果として挿入されたりもするんですが、これもまたいい雰囲気なんですよ、実に。絵に関しては、パッケージとかの絵が気に入ったのであれば間違いなく満足の出来だと思います。あとはもうほんとに好みの問題ですね。
<システム>
これまた普通のエロゲーアドベンチャーシステムです。シナリオの項目でも述べましたが、大きく二部構成になっていて、第一部で物語が進行する女の子が決定しますので、一人を除いて基本的には第二部では選択肢は登場しません。第一部で登場する選択肢自体もそれこそ片手で勘定できるくらいの数なんですが、これがキャラクターの分岐に入るにあたって非常にわかりづらく、結果として選択肢総当りになってしまいます。たとえば「この娘を抱きしめたからこの娘のシナリオに入る」とかじゃなくて、ことによっては意味のない選択肢の組み合わせで第二部でのキャラクターが決定してしまったりするのです。まあ、先にも云ったように数事態が多いわけではないので難易度はそれほどなのですが。
セーブ数はかなりの数可能ですが、なにぶん選択肢が少ないのでたぶんそんなには使わないでしょう。メッセージスキップは既読スキップ・未読スキップの可否を任意に調整できるようになっていてなかなかポイント高いです。メニュー項目はそれほど細かく設定できるわけではないんですが、ある意味では本当に必要最低限で、まったく不便は感じません。スキップもまあそれなりに高速です。
バグなんかは特に出ていませんが、起動時やセーブ時なんかに妙に時間がかかるのが気になるといえば気になります。マシン環境のせいかもしれませんが。
<音楽>
歌はオープニングのみで、いかにもI'veという感じの曲ですが、これはなかなか耳に心地よい名曲です。劇中の曲に関してはそれほど印象的ではないこともあるのかもしれませんが。
あと声。これに関しては云うことありません。みんなそれぞれベストマッチですし、演技のほうもばっちり。千夏でちょっと不自然なところがあったかなあという感じで、テンションの高さから演じるのが極めて難しそうな悠や今日子も、声がついていることでかなりキャラクタが生きています。怒る演技でちゃんと怒っていることを演出するというあたりまえのことなんですが、これって実は案外適当だったりするのですが、この作品はそのへんもきっちりで非常に好印象です。
<総合>
へんな云い方ですが、普通にオススメできる一作ですね。確かに大作や歴史に残る名作ではないと思いますが、笑わせてちょっとほろりとこさせて、っていう一連の物語の起伏はしっかりしていますので、やっていて面白いかと聞かれれば間違いなく面白いですし、物語そのものに適度な時間どっぷりと浸かれる深さはあります。
なるほど確かに大きなどんでん返しもありませんし、どこかで見たような話だと云われてしまえばそうかもしれませんが、じゃあそれだから楽しめないかと云えばこれは当たりません。なかなかギャグパートのみが先行して評価されがちな作品ではあるんですが、一人の女の子が大きな障害を乗り越えていく話であると見ていけば、根底にある話だってかなりのものだと思います。
ただまあ、それだけに構成そのものがちょっと惜しいかなとは思いますが。
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